第20話 ロウエン
「おい、大丈夫か。」
デューク団長にそう声をかけられた。
これが大丈夫に見えるのか。
襲われる!
そう思った私は、目を瞑った。
しかし、私が想像していたものとは違う感触が、体を包み込んだ。
これが死というものなのだろうか。
だが、特に体に痛みはない。
不思議に思いそっと目を開けると、目の前には目をキラキラさせ、私に抱きつく魔獣がいた。
それからずっと、私はその魔獣に頬をぺろぺろと舐められている。
「ど、どういうことでしょう。」
ノアが戸惑いながらそう口にした。
今目の前にいるこの魔獣は、魔獣というよりはただの大型犬にしか見えない。
「お前さんが聖女か。」
声が聞こえた方を向く。
魔獣にされるがままになっている私と、その状況を見て戸惑う2人の元に、1匹の魔獣がやってきた。
……え、魔獣が喋ってる?
「Sランク魔獣……!!」
デューク団長の顔が険しくなった。
2人は臨戦態勢に入る。
「やめておけ。いくらお前が強者だからとて、聖女と幼子を抱えた状態ではわしには勝てんよ。」
魔獣はそう言うと、私の元に近づいてきた。
汗が、頬を伝う。
この魔獣の纏う空気が、他のそれとは格段に違うのが私にもわかった。
あれ、息ってどうやって吸うんだっけ。
それすらも忘れてしまうほど、重い空気が流れる。
「安心せい。わしはお前さんを襲ったりはせんよ。」
魔獣は目の前まで来ると、私の手にそっと口付けをした。
それは、まるで姫に忠誠を誓う騎士のようだった。
「わしの身内がとんだ粗相をしてしまったようじゃ。お詫び申し上げよう。」
私にくっつく魔獣を見てそう言った。
なるほど、子供だったのか。
大きさ的にはもう大人のように見えるが、確かに目の前にいるSランク魔獣よりも体が小さい。
「申し遅れた。わしの名前は、ロウエンという。」
「ロウエン……。」
「それにしても、変わった匂いのする聖女じゃのう。」
変わった匂い……。
私は自分の服をくんくんと嗅いだ。
「はっはっ、そういうことじゃない。」
ロウエンは大きく笑った。
「異世界から来た聖女様だ。」
デューク団長がそう言った。
未だに警戒はしているようだが、剣は鞘に収めていた。
「なるほど。だからそいつも懐いておるのか。」
魔獣は「クゥン」と甘えた声を出して鳴いた。
「して、聖女が何故このような場所におるのじゃ。」
「あ、えっと。」
目の前の喋る魔獣に戸惑いながらも、私は事のあらましを説明した。
「なんじゃ、お前さんガロウ様に会いに来たのか。」
「ガロウ様?」
「ここに住んでおる獣人は、ガロウ様しかおらぬ。」
「どこにいるかご存知ですか?」
「勿論じゃ。わしはガロウ様に仕えているのでのぉ。」
え!?
「いい機会じゃ、案内してやろう。ついでにお前さんらに面白い話も聞かせてやるぞい。」
「面白い話?」
「知らんじゃろ、魔獣が何故生まれるのか。」
「!」
「ほぅら、着いてこぉい。」
ロウエンはそう言って歩き始めた。
「どうすんだ。」
「……行きましょう。」
決まっている。
こんな面白そうなことを、好奇心旺盛腐女子が見逃すわけが無い。
私たちは、ロウエンについて行くことにした。
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