第19話 そんなこと、絶対にさせない!
もし、私がBL作家だったらと想像した。
生まれながらにして、人に忌み嫌われた獣人。
魔法の力は凄いのに、貧乏人の家に生まれたからと、馬鹿にされる魔道士。
魔道士は、好きな人を傷つけた街に別れを告げて、1人獣人の元へ向かう。
そして、魔獣に狙われ続けながら、山奥で2人、ひっそりと生活するのだった。
~完~
「そんなこと、絶対にさせない!」
私は、デューク団長とノアと共に、獣人が住む家を目指した。
こんなところに、本当に人が住んでいるのだろうかと疑いたくなるくらい、周りには木々が生い茂っていた。
マリア様には、泣きつかれるくらい止められた。
私が獣人などと言わなければと。
でも、私は好奇心旺盛な腐女子だ。
獣人がどんな人なのか見てみたいし、闇BL展開はなんとしても阻止したい。
フィクションであれば大歓迎だが、現実で闇BL、メリーバッドエンドは辛すぎる。
そもそも私はこの世界を幸せにするために送られてきた聖女なのだから、獣人も、ノアも、私が必ず幸せにしてみせる。
私はマリア様にそう意気込んで、やっと遠征に行かせてもらった。
そして、ちゃっかり媚薬も貰った。
「お前、何か企んでるだろ。」
最初の頃はただの脳筋馬鹿野郎だと思っていたが、デューク団長は意外と鋭い。
「何も企んでませんよ。私は聖女ですよ。みんなの幸せが、私の幸せです。」
「……。」
じとっとした目で見られた。
私を疑うなんて、やはり不躾な奴だ。
「お前、さっきあいつに聖水渡してただろ。」
「……チッ。」
「おい、今舌打ちしやがったか?」
デューク団長に見られていたとは。
でも安心して欲しい。
今回の聖水は、前回よりも少し薄めに作ってもらった。
ノアのように純粋な子には、デューク団長に盛った媚薬ではキツすぎる。
恐らく何が起こっているのか分からずパニックになってしまい、最悪の場合行為に及ぶどころの話ではなくなってしまう可能性もある。
程よく火照って、程よく興奮するという聖水を、マリア様に作っていただいたのだ。
やはりマリア様をダークサイドに引き込んだのは正解だったかもしれない。
私は不敵な笑みを浮かべた。
それを見て、またデューク団長はまたじとっとした目でこちらを見てきたのだった。
「ここで一旦休憩しよう。」
デューク団長がそう指示をした。
休憩中の読み物くらい持ってくればよかった。
ただ、右を向けば大柄なイケメンが、左を向けば端正な顔立ちの美少年がいるということ構図は、私にとっては至福の時間であった。
「お、おかしい……。」
私が2人のあれやこれやを想像していると、ノアが言った。
「何が?」
「魔獣が、"まだ出てきてねぇんだ"。」
本来であれば、森に入って少し経つと、魔獣の群れが襲いかかってくるという。
魔獣は人間の魔力に敏感なので、森の中に入ればすぐに見つかる。
しかし、私たちは結構な距離を歩いたにも関わらず、魔獣には一度も遭遇していない。
険しい森だからと、マリア様には何度も引き止められたし、デューク団長にも最後まで渋られたのだ。
何か、良くないことでも起こっているのだろうか。
「いや、やっとお出ましみたいだ。」
デューク団長の言葉を合図にするように、森の中から数体の魔獣が顔を出した。
『魔獣』というものを初めて見たが、ものすごくデカい狼、といった感じだろうか。
「グルルルル……ワンッ!!」
1匹の魔獣が鳴いた瞬間、一斉に襲いかかってきた。
「俺の後ろにいろよ、聖女様。」
「分かった。」
戦うすべのない私は、デューク団長の後ろに身を隠した。
デューク団長は、私を守りながら魔獣に攻撃をする。
ノアも、後ろから魔獣を攻撃していた。
1匹、また1匹と魔獣が倒れていく。
さすが、第3騎士団長と言ったところだろうか。
「畳み掛けるぞ!」
ノアにそう合図すると、デューク団長は一気に斬りかかった。
しかし、見逃していた。
いや、隠れてその時を待っていたのかもしれない。
物陰から、ふたつの目が私を捉えたのに気付いた。
目が合った瞬間、魔獣は私目掛けて走ってくる。
「聖女!!!」
デューク団長の声が聞こえた頃には、魔獣はもう既に目の前にいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます