第16話 喧嘩で負った傷は治しません

「何でそんなこと聞くんだ。」




険しい顔で、デュークはそう言った。




「知りたいから。」


「……。」




デュークはそのまま黙ってしまった。




私がマリア様から聞いたのは、魔獣にはランク付けがされていて、Sランクの魔獣は人間の言葉が喋れるということ。


そして、そのSランクの魔獣と人間との間に生まれた者が『獣人』と言われているということだった。




「獣人のことなんか、知らなくてもこの世界では生きていける。」




本当に獣人というワードはタブーなんだ。


デュークは普段、質問したことには割と端的に答える。


イエスでもノーでもない、曖昧な答え方はあまりしない。


恐らく、本人がそういう曖昧な答え方を嫌っているのだろう。


だが、獣人の件に関しては、「知る必要が無い」と言った。


獣人について知っているのであればイエス、知らないのであればノーと答えればいい。


このような曖昧な答え方をするということは、獣人に何らかの感情を持っていると言っているようなものである。




「じゃあ、『獣人』について、詳しい人を知らない?」


「……知らねぇよ。」




どうしたものか。


『獣人』のところに行こうにも、山奥であれば私一人では行けない。


デュークもこんな調子でまともに取り合ってはくれないし。


何かいい案はないかと考えていると、デュークがはぁ、とため息をついた。




「詳しい奴というか、「獣人に助けてもらった」って言ってる奴なら、前にいたぞ。」


「え!?本当?」




私がキラキラした目でデュークを見ると、根負けしたのか、デュークはガシガシと頭をかいて降参した。




「……仕方ねぇな。案内してやるよ。」




デュークはなんだかんだで義理堅いやつだと思っていたよ。


私は顔を緩ませながらデュークの後を追った。





「おや?」




デュークに連れられてきたのは、第2騎士団の練習場だった。


第2騎士団は魔法に特化しているため、練習場の至る所に魔法吸収装置が置かれていた。


中に入ると、私たちの存在に気づいたのか、一人の男が話しかけてきた。




「これはこれは。デューク団長殿じゃありませんか。お越しいただきありがとうございます。」




男は、一言で表すと蛇のような雰囲気をまとっていた。


腹に何か一物を抱えているというか、決して本心を相手に見せないというか。


少し気味悪さがある男だった。


しかも、これは女の勘だが、恐らくデュークとは相容れない相手だろう。




「せっかく起こしいただいたのに申し訳ございませんが、今は魔法訓練の真っ最中でございます。"当たると危険"ですから、今すぐ外に出られた方がよろしいですよ。」


「……あ"?」



私の勘は的中した。




「お前らの下手くそな魔法が、俺に当たるわけねぇだろ。俺はお前んとこの部下に用があってきたんだ。」


「あー、怖い怖い。冗談ですよ、冗談。小さい頃から剣ばかり振り回してた人に、魔法なんか当たるわけないんですから。」


「てめぇ……。」


「やめなさい。」




まさに一触即発。


だが、そう簡単に喧嘩をさせるほど、私は甘くない。




「魔獣討伐で負った傷は治しますが、喧嘩で負った傷は治しません。私の仕事を増やすようなら、見殺しにしますから。」


「「……。」」


「私は聖女です。喧嘩よりまず先に、やることがあるのでは?」




私は蛇男の方を見た。




「……申し遅れました。第2騎士団団長を務めております、ヒュー・スタインバーグと申します。お越しいただき感謝致します、聖女様。」




分かればよろしい。





デュークが言っていた人物は、第2騎士団の中でも有名な人物らしい。




「あの子は魔法学校を主席で卒業したエリートです。まぁ、入学も特待生枠を使っての入学でしたので、お金は持っておりませんが。」




ヒュー団長は、息をするように嫌味を言いながら、その人物の元に案内してくれた。




「ノア!」




ヒュー団長が呼ぶと、一人の人物がこちらを向いた。




「聖女様があなたにご用があるということですよ。挨拶しなさい。」


「あ、あの……初めまして、聖女様。の、ノアと申します。」




こちらに駆け寄ってきて挨拶をしたのは、天使のように可愛らしい男の子だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る