心優しき獣人×気弱魔道士

第15話 はめてたのはあなたでしょ?

「お前、俺の事はめただろ。」




マリア様がダークサイドに落ちてから数日が経った頃、いつも通りベンチで黄昏ていると、デューク団長が声をかけてきた。


ちょうど聞きたいこともあったし、タイミングよく現れてくれて助かる。


しかし、この男は開口一番こう言った。


はめたということは、恐らく私が渡した聖水の話だろう。


デューク団長は、すごく怒っているという感じではなかったが、少々戸惑っているようだった。




「私ははめてませんよ。はめてたのはあなたでしょ?」


「なっ……!見てたのか!!」




私を覗き魔扱いしたな、こいつ。




「失礼な事を言わないで。野外で、人目も気にせずヤッていたのはあなたでしょ。」


「ぐっ……。」




ぐうの音も出ないと言った感じだ。


そもそも私は「ただの聖水ではない」と言っている。


それに、私はちゃんと「他の人の前では飲むな」と言った。


かなり念を押して言った。


それでも野外であの聖水を使ったのは団長様だ。

私が責められる筋合いは……少ししかない。




「お気に召したならまた差し上げますけど?」


「……いい。俺はもう、あいつの嫌がることはしねぇ。」




なるほど。


あの媚薬でリアム団長と行為に及んだことを後悔しているのか。


BL漫画ではお決まりの展開だ。


お互い両思いだし、その意思は確認できているのに、無駄に臆病になってしまう。


でも、心配ない。


恐らく、リアム団長は今真逆のことを考えているだろう。


なかなか手を出されず、悶々としているはずだ。

痺れを切らして、泣きながらキレるのも時間の問題だろう。




「まぁ、あなた方はもう大丈夫でしょう。」


「大丈夫って、」


「それより聞きたいことがあります。」


「おい、俺の話聞けよ。」




この男のノロケを聞いている暇などない。


私たちは、新たなるBL孤児を救いに行かなければいけないのだから。




「『獣人』に関わりのある人間って、誰かいませんか?」


「……獣人だと?」




デューク団長の表情が険しくなる。


やはり、『獣人』というのは騎士たちの前ではタブーなのか。





「『獣人』とは、『魔獣』と『人間』の間に生まれた者のことを言います。」




マリア様は、この世界にいる『獣人』と呼ばれる種族について説明してくれた。




魔獣の中には、3つのランクが存在する。


最下層のBランク。


1番数が多いAランク。


そして、最上位のSランク。


Sランクの魔獣は、下のランクのものに比べて知能が高く、私たちと意思の疎通ができる。


つまり、私たちと同じ言葉を喋るのだ。


いつも騎士たちが戦っているのは、Bランク、Aランクの魔獣だ。


この2つは知能が低いため、本能のままに人や街を襲う。


だが、Sランクの魔獣は、そもそも出会う確率が低い。


騎士たちと無駄に戦って傷を負いたくないので、見つからないように身を隠して生きている魔獣がほとんどだという。


稀にSランクの魔獣に出会う者もいるらしいが、その人たちには会って話を聞くのは無理だろうと言われた。




「どうしてですか?」


「Sランクの魔獣は、桁違いな力を持っているのです。なので、団長クラスでもない限り、Sランク魔獣に戦って勝つことは、まず不可能だと言われています。」




もし、会ったことがある騎士がいるならば、その人はもうこの世にはいないということか。




「でも、団長クラスであれば、Sランク魔獣に遭遇してる者もいるかもしれないということですよね?ほら、例えば、デューク団長とか。」


「おやめになった方がよろしいかと。」


「何故ですか?」


「魔獣に対して、嫌悪感を持っている騎士は少なくありません。魔獣に、家族や、友人や、同僚を殺された者はたくさんいます。特に騎士たちは、戦場に赴いている分、大切な存在を魔獣に奪われている者が多いです。」


「私は、魔獣討伐というよりは、聖女の護衛をするということで訓練を受けておりましたので、そういった嫌悪感はありません。ですが、第3騎士団のように、いつも最前線で魔獣と戦っていたような騎士たちは、確かに嫌悪感を持ってる人が多いように感じます。」




リーナはそう言った。


なるほど、確かにそうか。


第3騎士団は街の自営団体から作られた騎士団。


そもそも自営団体なるものができたのは、騎士たちでは簡単に行くことが出来ない、山奥にある街などを守るためだ。


魔獣討伐に関しては誰よりも知っているのだろうが、その分敵対心も強いということなのだろう。




「私たちの間でも、特に第3騎士団に対しては、『魔獣』や『獣人』の言葉を使うのはタブー視されています。よく喧嘩はしますけど、そういった単語を使って喧嘩したことはないのです。誰が決めたわけではないのですが、暗黙の了解というやつだと思います。」




結局、その日は魔獣の説明を受けて終わった。

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