第13話 誰かが付き合っているところを見るのがお好きなんですよね?

部屋の中の沈黙が続く。


時が止まっているのではと錯覚するほど、重い空気が流れる。


最初にこの沈黙を破ったのは、リーナだった。




「私は確かに見たのです、あの二人が廊下で言い争っているところを。」




それは私も見た。




「今日だけじゃありません。あの二人は会えばいつも喧嘩をしていました。デューク騎士団長は喧嘩っぱやいと言われていますが、どちらかと言えば、いつも絡んでいくのはリアム団長の方だったと思います。」




何となく想像できた。




「私は最初理解できなかったんです。」


「……何を?」


「聖女様がお持ちになられている、本の内容です。」




……え?




「読んだの!?」


「ベッドの上に置いてあったのを片付ける時に、たまたま。」




これはヤバい、本当にヤバい。


私、明日命ないかもしれない。




「内容は、普通の恋愛もので面白かったですよ。」


「へ?」


「ただ、所詮フィクションだと思ったのです。私は生まれてこのかた、男性が男性と付き合っているところを見たことがなかったので。」




確かに、私も出会ったことは無い。


BL漫画はたくさんあるし、私も読んではいたが、身近に同性同士で付き合っている人がいたかと言われると、私には分からなかった。




「聖女様はご存じだったのですね。」


「……え?」


「デューク騎士団長と、リアム団長のことです。ご存知だったから、恋の後押しをするために、マリア様がお作りになった聖水を渡したのですよね?」




めっちゃバレてる。


え、何で?




「え、どうしてそう思ったの?」


「どうしてって、聖女様は誰かと誰かが付き合っているところを見るのがお好きなんですよね?」




そうだけど!!




「びっくりしましたけど、結果的にあの二人が仲直りして、結ばれたのなら良かったのかなと。」


「……リーナぁ!!」




私は泣きながらリーナに抱きついた。




「ただ、あの時のデューク騎士団長、すごく興奮していたみたいですけど、あの聖水本当に大丈夫ですか?」




確かにそこが問題だ。


私には状態異常の効果を付与する能力はないし、もし媚薬をまた作るとなれば、マリア様に頼まなければいけない。




いや、そんなこととてもじゃないが出来ない。


リーナもそうだが、もう既に二人もこの世界に引きずり込んでしまった。


リーナは理解してくれたし、秘密は絶対に漏らさないだろう。


しかしマリア様がリーナのように理解を示してくれるかと考えると、首を傾げてしまう。


というか、マリア様だけは絶対に巻き込んではいけない。


恐らく、リーナよりもそういったことに免疫がない。


免疫がない上に、初めて見たBL漫画がSMなど、本当に笑えない。


あの媚薬も、今回のように恋の後押しをするために使えるのではと思ったが、きっとこれが最初で最後になるだろう。




私の夢、ついえたり。




そう思っていると、コンコンと部屋の扉を叩く音がした。




「どうぞ。」




そう言うと、「失礼します」と言って、人が中に入ってきた。




「ま、マリア様……!!」

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