第11話 涙の味(語り:デューク)

「リアム!」




名前を呼ぶと、泣きそうな瞳が俺を捉えた。




「安心しろ、聖女様は見つかったよ。」


「……そうか。」




安堵と、後悔。


感情が入り交じり、ぐちゃぐちゃになったような顔をしていた。




「聖女様に言われたよ、「マリア様はすごいんだ」って。」


「……え?」


「まぁ細かいことは言えねぇけど、悪かったな。マリア様のこと。」


「俺は……別に……。」




いつも喧嘩ばかりしてたから、こういう時どういう言葉をかけていいのか分からない。


元気出せ?


いつまでウジウジしてんだ?


こんなことを言ったら、今のこいつは泣くかもしれないな。




恋人同士であれば、こいつのことを抱きしめてやることが出来たんだろうか。


俺たちは、ただの第3騎士団長と第1騎士団長だもんな。


顔を付き合わせればいつも言い合い。


お前とまともに会話したことなんか一回もない。


俺が、もっとまともな男だったら違ったんだろうか。


こんな時でも、優しく声をかけてやれる男だったら。



「……ははっ、何でお前が泣きそうな顔してるんだ。」




日が落ちてきて、辺り一面にオレンジ色の光が広がっている。


その中で、リアムは綺麗な顔を浮かべて笑っていた。




俺はリアムを抱きしめた。


力いっぱい、もう離れていかないように。




「痛いぞ、デューク。」




笑いながらそう言った。




「好きだ。」




気付いたら自然と口から出ていた。




「お前が、俺のこと好きじゃないことくらい知ってる。でも、今だけ。少しだけ、このままで居させてくれ。」




離したくない。


叶うならずっとこのままでいたい。


でもそれはだめだ。


この腕を離したら、またいつもの日常に戻る。


喧嘩して、いがみ合って、口も聞きたくねぇみたいな顔をして。


そんな日常に、戻るんだ。




「離さないでくれよ。」




リアムは俺の背中に腕を回した。




「俺もお前のことが好きだ、デューク。」




聞き間違いだろうか。


お前が俺のこと好きなんて。


俺はついに耳までおかしくなったのか。


でも、今だけならいいか。


今だけなら、こいつも許してくれるか。




俺はリアムから少しだけ体を離し、リアムの唇にそっとキスをした。




こいつ、泣いたのか。




リアムの唇は、涙の味がした。

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