第29話 シスコンお兄ちゃんず

 静が顔を太路へと向けた。


「25番? 私に聞かれても分かんないよ。1次はうちの事務所ほとんどノータッチだもん。ライブ配信サイトの結果待ちな感じ」

「そうなんだ」

「2次はスタッフがチェックするから、もしも残れなくても拾い上げがあるかもしれない、とは聞いてる」


 なるほど、1次は機械的に順位による合否だけだが、2次ではスタッフに刺されば合格の望みはあるってことか。

 スタッフに小さい女の子を愛でるタイプの人がいたらいいんだけど。


「へえ、太路友達できてんじゃん。家まで行くとかだいぶ仲良しじゃん」

「まあ、仲が悪くはないね。静の話かガナッシュの話しかしてないけど」

「でも、カップルの設定いる?」


 ソファに座る太路と健太の間で、静が横たわり太路の足に頭を乗せている。


「静の話で盛り上がっててもカップル共通の趣味の話としてスルーされるから便利設定ではあるかな。これがただの友達設定だったら何の話? って突っ込まれてオーディションに参加してることがバレてたかも」


 ムーとふくれた静がギュッと太路の腹に顔を押し付け、腕を太路の背中に回して締め上げる。


「静はやっぱりすごいよ。ニコちゃんと話してたら改めてよく分かった。静の存在がファンにこんなにも影響を与えてるんだって」


 太路が優しく静の髪をなでると、パッと勝気に静が笑う。


「私ほどファンを大切に思ってるアイドルはそうそういないからね。ヒマはともかく、エマなんかライブでファンを豚呼ばわりしてたもの。ついて来い、豚野郎ー! って」

「ファンサだろ」

「どこがサービスなの、健ちゃん」

「大人の世界にはいろんな人がいるんだよ」


 冗談だと思い込んでいる太路に健太がニッコリ微笑んだ。


「ねえねえ、私もオーディション受けるかもしれない」

「え?! ネクジェネ辞めるの?!」

「違う違う。ドラマのオーディションの話があってね。新人女優の役だから、役者未経験者限定のオーディションが開かれるかもしれないんだって」

「おおー、静チャンスじゃん」

「でしょ!」


 太路は静の髪をなでながら少し寂しく感じた。


 静は将来、女優をやりたいと言っていた。

 僕は40歳50歳になっても現役アイドルの静が見たいけど、静の人生だ。僕が口を出すことじゃない。


「でも静、こないだ生涯現役アイドル宣言してたじゃん。俺てっきり太路が言ってたみたいにアラフィフアイドル目指すのかと思った」

「え、そんなん言ってたの?!」

「お、太路が見逃すとは珍しいな。言ってたよな、静」


 静がまた太路の腹に顔をうずめた。


「言った。私はどっちもやる。アイドルやりながら、女優の夢も叶えてみせる」

「静ならできるよ。応援してる」

「ありがと」

「マジでやっちゃいそうなのが静の怖いとこだよなー。お前ならできないことはないんじゃないかって思えてくる」

「いずれはハリウッドスターかな」

「待て待て、日本にはいてくれ」

「うんうん、アメリカは遠いよ、静。会えなくなったら寂しい」


 静がパッと起き上がって、太路と健太の前に仁王立ちする。


「しょーがないお兄ちゃんたちだな。シスコンなんだから」

「静が遠くに行ったらお兄ちゃん泣いちゃう」

「毎日泣いちゃう」


 ふざけて泣きまねをする健太と太路に、静は最高の笑顔を見せ、兄ちゃん孝行した。

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