第28話 新たなチャレンジ
風呂から上がり、スマホを手にした太路はニコちゃんの配信開始の通知から見始めた。
画面にはキーボードとニコちゃんの細い指が映っている。
「こんばんは。エントリーナンバー25番、ニコです。えーと、お友達からキーボードをいただきました。ピアノは全然やったことないんですけど、セイちゃんのソロ曲、マーメイドメロンにチャレンジしたいと思います。このオーディションの期間内に弾けるように、練習がんばります。あの、ぜひ、応援いただけるとすごく嬉しいです」
落ち着いて、ニコちゃん。早口でなおさら何を言っているのか聞き取りにくい。
自分が関わったことにより、太路はニコちゃんの配信をハラハラしながら見るはめになった。
配信開始直後が一番視聴者数が増える。
初っ端に静のソロ曲をやると言うように太路はニコちゃんに伝えていた。
マーメイドメロンとニコちゃんが言った直後に、さっそくファンが1人増え、4人になった。
よし、あと149人!
ニコちゃんは学校の音楽で習った程度なら楽譜が読めるらしいのだが、珠莉がまったく覚えてないから耳コピした音を譜面に起こすことができない。
珠莉の頭の中にある音を弾くことで体現して、ニコちゃんはそれを覚えるしか術がないのだ。
珠莉が弾くのを録画して覚えよう、と最初から最後まで弾いてもらって撮ったのだが、画面で見るのと実際に弾くのではかなり違和感があるらしく、とにかくニコちゃんも弾いて覚えるしかない、と結論が出た。
「音階?」
右側のコメント欄に「音階を教えてください」と出ている。
「ドレミ」と更にコメントが流れてくる。
「あ、ドレミですね。分か……ごめんなさい、場所で覚えてるから、どれがドかレかミか分からなくって……」
ニコちゃんのピンチである。
手を貸してやりたいが、太路も冷静さを欠いているので対応策がまるで浮かばない。
メッセージの通知がペコンと出る。
静か。
ごめん、静。今それどころじゃないんだ。
何の用事かも分からないのに、太路はニコちゃんの配信に戻った。
「俺がコメントで音階言う。今弾いてるのがミ」
その手があったか。なるほど、リアルタイム配信のいいところだ。
数名が音階解読に協力しながら、ニコちゃんは配信を終えた。
退室ボタンを押そうとして、太路は驚愕した。
視聴者数はいつの間にか200人を超えており、ファンが65人になっていた。
1回の配信で、62人もファンが増えた。
呆然としていたら、ニコちゃん本人へのコメントが来た。
この機能はファンレターのようで、それでいて誰でも見られる。
「誠実な人柄が好きです。応援しています!」
このコメントを見たら、誠実な人柄とはどんな子なんだろうと興味を持たれそうだ。
なんて素晴らしいコメントを寄越してくれたんだ。ありがとう! アップル・タッセル・ジャッカルビーム! さん。いや、欲を言わせてもらうともう少しまともな人そうな名前に変えてもらえないだろうか。
太路はプロデューサーとして、たしかな手応えを感じた。
いける! 間社長、あなたの手腕はたしかだ!
絶対、ガナッシュは成功する!
1日も早くデビューするべき!
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