第24話 ファンサービスの前に
今日こそ、ニコちゃんとオーディションの話を詰めなければ。
太路とニコちゃんはクラスメイト的にはカップルとして毎日中庭で二人で弁当を食べているが、オーディションの話を始めたはずなのに気付いたら静の話になっている。
昨夜、エントリーナンバー25番・ニコちゃんの配信を見ながら、これでは合格なんて望めない、と太路は改めて思った。
ニコちゃんは順番を間違えている。僕はそんな肝要なことすら伝えられていなかった。プロデューサー失格だ。
「クラス委員を決めないといけないのに、徳永と
ニコちゃんも休んでいる。担任教師にまで存在を悟らせないとは、さすがニコちゃんだ。
太路はそう思いつつも、もちろん担任に何も言うでもなく姿勢を正している。
「委員長は徳永くんがいいと思います」
「てか、他に適任なんていないよね」
まったく異議なしだ。
休んでいる間に委員長にされるなんて、状況によっては単なるイジメだが徳永くんに関してはただの人徳である。
「じゃあ、次。環境美化委員を男女ひとりずつ」
教室がざわつく。
太路も聞いたことがある。環境美化委員になると、暑いから夏休みなのに草むしりに登校し、寒いから冬休みなのに草むしりに登校しなければならないらしい。
「見和さんが環境美化委員やりたいって言ってましたー」
太路をヘタレだと見抜いた目利きのギャルが手を上げた。
「じゃあ、女子は見和」
本当にその見和って女子はめんどくさいでおなじみ環境美化委員なんてやりたいと言ったんだろうか。このキンシコウの捏造じゃないだろうか。
ニヤニヤと笑うギャルに目をやるも、もちろん太路は一石を投じたりしない。
「男子ー。誰かがやらないといけないんだ。誰かがやるだろうじゃない」
教師が男子への説得を試みるが、誰も目を合わせようとしない。もちろん太路も筆箱の中を見ていた。
「ヒーローならやってくれるんじゃないですかー」
クラスメイトの注目が太路に集まる。
筆箱のチャックをそっと閉じた太路は声の主、ギャルを無表情で見た。
やれやれ。
彼女はヒーローという存在をどのように解釈しているんだ。ヒーローを冒とくするんじゃない。
太路は手を上げた。
「やります」
僕は真なるヘタレである。
この状況でやらない、と言いギャルやクラスメイトと戦う選択肢はない。
「まじか……本物のヒーローだ」
ギャルが驚いているが、君のせいなんだが。
早速、放課後に草むしりがあると告げられた太路は、もう絶望しかなかった。
ああ、去年のクラスならばこんなことにはならなかっただろうに……。こんなクラス大嫌いだ。
昼休み、今日はひとりだから席で食べるか、と太路は弁当箱を手に取った。
徳永くんがいないと、誰も太路に寄り付かないことが分かった。
「あ、今日はここで食べるんですか?」
聞き取りづらい小さい声に顔を上げると、ニコちゃんがいた。
「あれ? 今日は休みじゃなかったの?」
「朝、軽い貧血で倒れちゃって、遅刻です。2時間目からいました」
いたの?
まるで気付かなかった。現代に忍者がいたらこれほどの適職はないだろう。
中庭に移動し、スマホでお弁当の紹介配信を終えたニコちゃんに太路の意見を述べる。
「ニコちゃんは順番を間違えている。今やるべきことはファンサービスではなく、まずファンを獲得することだ」
太路も見ていたが、視聴者数は2。ニコちゃんのお弁当配信に興味があるのはこの世でただひとりである。
「ファンサービス?」
「そう。ファンならば今日のニコちゃんのお弁当が気になる。けれど、なんの興味もない女子高生のお弁当なんてよほどのJKマニアじゃなければわざわざ配信を見ようとは思わない。まずは多くの人に興味を持ってもらうところから始めるべきだ」
たったこれだけを言うのに何日かかったことか。すぐにニコちゃんは静の話に脱線するんだから。
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