第20話 一番大切なもの
静がお土産に買ってきた白い恋人の包みを開け、個包装から出して口許に差し出すとパクッと静が食いつく。
不機嫌な静にはまず甘いものを与えましょう。
「別にいいじゃん。ヒマは彼氏がいたってネクジェネを第一にしてるし、ファンを大切にしてるよ。昨日だって彼氏と会おうと思えば会えたけど、飛行機の遅れで心配してるファンがいたから家に着いたら無事だよって生配信で安心させたいって彼氏の方を断ったんだよ」
おおー、と太路と健太が敬意を示して拍手を送る。
「さすがヒマちゃん! 俺一生イエローマン」
「でしょ。彼氏がいたってヒマのファンやめないよね」
「それは人によるだろーなー」
大きな瞳で迫りくる静の勢いに押されながらも健太が頭をかいて否定する。
「ガチ恋勢はまず離れるよな、やっぱ」
「ヒマさんはまたガチ勢多そうだよね」
「静みたいに女子のファンばっかなら彼氏いても影響少ないかもしんないけど、ヒマちゃんは男の夢と願望をあのビッグなバストに詰め込んでるからなあ」
「静も彼氏作りたかったりするの?」
太路が何気なく聞くと、静はまたムッとして太路の足に頭を乗せゴロンと転がった。ギュッと太路の背中へ伸ばした腕に力を入れる。
「私は彼氏なんか作る気ない。何よりも応援してくれるファンが一番大切だもん」
「それでこそ静。安心したよ」
「あー、焦った。びっくりしたよな。マジで静に彼氏できたのかと思った」
太路の腹にほっぺたをくっつけて、誰にも見られず静が沈んだ顔になる。
「マネージャーにもプロデューサーにも彼氏のことは言ってないんだって。バレたらどんな処分になるか分からないんだって。ねえ、どうして彼氏がいちゃダメなの?」
処分という言葉を静が慎重に口にした。
静、彼氏の存在が明るみに出てヒマさんに処分を下されるのが不安なんだな。
どうしてダメなのか太路には分からない。でも、ヒマさんならきっと大丈夫だよ、と伝わるよう、太路は優しく静の髪をなでる。
あー、違うかもしんねーけど、と健太が口を開く。
「アイドルって英語を直訳すると偶像だからな。求められる像に近くなければならないってのはあるんかもな」
「求められる像?」
「そ。ヒマちゃんが彼女だったらいいなって妄想が、現実にヒマちゃんに彼氏がいるとなったらできなくなる。夢を売る商売としてはダメなんじゃね。妄想させ続けねえと」
太路はガナッシュが大好きだが、さすがにタークミストが彼女だったらとは妄想しない。けれど、今こうしている間もキーボードを弾いたり次のイベントに向けてがんばっているんだろう、とは思う。
それが現実には彼女とイチャイチャしてばかりとなれば、多少ならずガッカリしてしまいそうだ。
「私たちは妄想させるためにアイドルやってるんじゃない!」
太路のひざから体を起こした静が久しぶりにキラキラと中二くさく輝く目で言い放った。
「あはは! それ今度テレビで叫べよ。久々に炎上間違いなし!」
「うー……」
「やっちゃったな、静」
ポカポカと両手で胸を叩いてくる静をものともせず、太路は静の頭にポンポンと手を乗せて笑った。
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