第19話 アイドルと彼氏問題
太路はチラリと健太を見て、すぐに忌々しく目をそらす。
「友達というか、しつこく絡んでくるクラスメイトがいて辟易してるよ。クラスのみんながこの僕をヒーローと呼んでくるんだよ」
「あはは! 太路がヒーロー?!」
笑いごとじゃないんだよ。
太路は深刻なため息をついた。
「二カ月は通ってた学校だから音楽室の場所くらい覚えてるだけなのに、さすがヒーローは何でも知ってる、なんて言ってくるんだ」
「いいじゃん。とっもだーちひゃーくにんでーきるーかなっ」
「ひとりもいらないよ」
ふざけて笑っていた健太が真面目な顔をして太路を見つめる。
「太路、友達は大事だよ。そんな人を寄せ付けない態度ばっかとってないで、この機会に友情を育んでみろよ」
「いくら相手を思ったってどうせ伝わらないんだ。父さんのように死んでから悪口を言われたり、母さんのように人の世話ばっかり焼いて病気になるくらいならひとりでいた方がいい」
「もー。太路は極端なんだよなあ。姉さんだって生粋の世話焼きなだけで無理してた訳じゃねえしさあ」
「ただいまー!」
静の声に、久しぶりに帰って来れたんだ、と太路が振り返る。
「おかえり」
「これお土産。ロケで北海道に行ってきたの」
「おー、やっぱ北海道と言えば白い恋人だよねー。俺これ超好き」
「でしょ。なのにエマが北海道と言えばバターサンドだって譲らなくってさー。あの子なんでも私に対抗してくるんだよね」
「ネクジェネはみんな我が強いからなあ」
ネクジェネのメンバーにはイメージカラーがそれぞれ決められているが、ライブの時にはペンライトを推しの色にするようファンに推奨されている。
太路ならばそんな自分のファンが他のメンバーに比べて多いか少ないか一目瞭然の状況は耐えられないが、それがやる気に繋がる強いハートの持ち主たちがネクジェネである。
「ねえ、どうしてアイドルは彼氏がいちゃダメなの?」
「は?! 静、彼氏できたのか?!」
太路も健太も大事件発生に思わず静へと詰め寄った。静は平然と首を横に振る。
「ううん。私じゃない」
「誰誰? ヒマちゃんはプロ意識高くて絶対彼氏なんか作んねえから、案外エマあたりか」
「ヒマだよ」
「嘘だろー。ヒマちゃああん」
ヒマワリファンを公言している健太が強く床を叩く。
「昨日、北海道から帰る飛行機が悪天候で遅れたの。そのせいで彼氏と約束してたみたいなのに会えなくなっちゃって、コソッと電話してたのを聞いちゃったんだ」
「それ彼氏なの? 兄貴とか弟じゃねえの」
「だよね。ヒマさんに限って彼氏なんてそんな」
太路にしても、ネクジェネは特に恋愛禁止をうたってはいないもののアイドルに恋愛はご法度だろうというイメージがある。
ヒマワリがファンを裏切ってまで彼氏を作るとは思えなかった。
「私もそう思ったからお兄ちゃん? って聞いたら彼氏だってヒマが言ったの」
「マジかー。ヒマちゃああん」
さっきよりも大げさに健太が床を叩くのを見て太路が笑う。静がムッとした。
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