第6話 ネクストジェネレーション

 今夜のミュージック素敵ね、略してミューステは2時間スペシャルで7時からか。


 太路はリモコンに手を伸ばし、痛みを感じて顔をしかめた。


 3カ月も経っているのに16歳の若さでここまで治っていないとは、一体どれだけの傷を負わされたんだろう。


 7時になり、番組ロゴとテーマ曲が流れ出演者が登場する。ネクストジェネレーションがトップだ。


 5人組のネクジェネだが、静ひとりだけポップアップでも使っているかのように飛び上がっての登場。キャーッと沸いた観客から


「おかえり! クソガキー!」


 と声援が飛び、静は嬉しそうに手を振っている。


 オープニングトークでも静の活動休止について司会から話が振られた。


「今夜テレビ初披露の新曲だけど、全然合わせられてないって聞いたよ。大丈夫?」

「大丈夫! ミスったらミスったで貴重映像として流してください」

「あはは! セイちゃんミスしないもんねー」

「私がミスったら地球滅びますよ」

「相変わらず適当だねー。良かった、変わってなくて」


 あんなことを言っているが、仕事に対して静の責任感は半端じゃない。内心はミスしないか不安だろうが、静ならできる。がんばれ!


 太路は思わず拳を握りしめてテレビに見入る。


 赤やオレンジなど暖色の大きなラメのような物がたくさん付いた衣装で新曲が始まる。画面越しの太路にはこいのぼりのうろこをまとっているみたいに見えた。


 そうか、静はこの病室で歌っていたから僕には聞き覚えがあるんだ。情報漏洩しているじゃないか。


 センターの静のアップで曲が終わり、全員で礼をしたのが映りカメラは司会へと変わる。


 新曲もいい! 変な衣装だと思ったけど、曲の雰囲気とよくマッチしている。太路はひとりで小さく拍手をした。


 スマホでチェックすると、ネクジェネ、セイ復帰、ミューステ、おかえりクソガキと静関連がいくつもトレンド入りしている。


 さすがネクジェネ。さすがセイだ。太路は胸がいっぱいになった。


 ガナッシュのホームページを開く。活動のお知らせに変化はないがブログは更新されている。


 ガナッシュも結成5年、活動期間はネクジェネと同じだというのに、この差……。


 事務所の大きさがまるで違うから仕方ないことだと分かってはいても、大きなため息も出ようというものだ。太路が5年前から応援しているガナッシュはいまだメジャーデビューすら叶わない。


 大好きなガナッシュの5人と、大切な静が所属するネクストジェネレーションの共演をいつかは見たい。太路は心からそう願っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る