第5.5話 舞台裏にて

 一ノ瀬太路が入院する病院から飛び出したセイは、ネクストジェネレーションのリーダー、ヒマワリに連絡を入れタクシーを使う許可を取った。


 今や日本のトップアイドルグループのひとつとして頭角を現しているとは言え、マネージャーはグループに対してひとりで、他のグループも担当しているため多忙を極めヒマワリとのみ連携を取っている。一応連絡先はスマホにあるものの、セイがマネージャーに直接連絡をすることはまずない。


 所属事務所のリハーサルスタジオに駆け込むと、エマが細い体のラインの出たピッタリしたTシャツとスパッツで柔軟体操をしていた。


「ただいま!」


 セイと目が合うと、ネクジェネのクール担当を地で行くエマは長い黒髪を広げてクルッと背を向け、ヒマ、とヒマワリに声をかけた。


「あ! おかえり! セイ!」

「ただいま!」


 ヒマワリは名前の通り大輪の花のように笑顔でセイを迎え入れた。


「良かったね。太路くん目が覚めて」


「うん!」


「セイのポジションは守ってるから、思いっきりやりきれ!」


「ありがとう、ヒマ!」


 一切の嫌味のないヒマワリの言葉はドキドキしていたセイの胸に安心をもたらした。

 突然、仕事に穴を開けた事実は自覚なくセイを怯えさせていた。


「セイ! おかえり!」


「セイちゃんー! 良かったあ、元気そう!」


 奥のドアからミオとユイナがリハスタジオに入ってきて、セイの姿を見て飛び上がって喜んだ。


 その嬉しそうな様子に、ヒマワリはきちんと二人が納得できる説明をしてくれていたんだと分かり、よりセイのヒマワリに対する信頼を強める。



 時間もないので、今夜テレビ初披露する新曲をさっそく合わせていく。


「オッケー! セイ、よく仕上げてきた! あんたならやると思ってたけどここまでやるとは思ってなかった!」


 ダンスの先生に褒められてセイが嬉しそうに笑う。

 太路のために仕事を休んだせいでクオリティが足りないという評価だけは絶対に受けたくなかった。


「すごい! セイ! 初合わせとは思えない!」


「そのプロ根性、尊敬する! ほんと、セイは真面目でストイックでカッコいい!」


「さすが、ネクジェネの絶対的センターだねえ」


 ワッとセイの周りにヒマワリ、ミオ、ユイナが集まる。エマはひとり、ペットボトルの水を飲みにスタジオの端っこのテーブルへと向かった。


 ネクストジェネレーションはとても仲の良い5人組アイドルグループである。


 リーダーのヒマワリはその名前からイメージカラーイエロー、19歳のデビュー当時からフェロモン系アイドルと呼ばれ、男性ファンが多い。現在24歳。トレードマークのポニーテールをいつまで続けるかを真剣にマネージャーと相談している。

 しっかり者で頼れるみんなのリーダー。


 23歳のミオは女性的な印象の強いヒマワリとは対照的に背が高く金髪ショートカットで、顔は年より幼く見える美少女ながら紳士的な言動で女性ファンが多い。

 イメージカラーはブルー。


 二十歳を過ぎても10代の頃と変わらず萌え萌えロリキャラ路線を通し22歳の立派な大人だと感じさせないユイナのイメージカラーはまんまピンク。

 ミオと変わらない身長がありつつも、声優もこなすロリボイスとゆるふわミディアムヘアで最年少のセイよりもパッと見は年下に見える。


 ユイナよりも余程大人びて落ち着き払ったエマは18歳ながら圧巻の存在感を放つ。最も背が低く小柄ながら気が強くクールビューティという言葉がピッタリハマるエマは、一番年が近くファン層の被るセイをあからさまにライバル視している。イメージカラーはパープル。


 ネクストジェネレーション最年少ながら絶対的センターを務める15歳のセイは、同じ10代女子のファンを多く獲得している。イメージカラーはセイのイメージに全くないグリーン。


 ファンの3割は熱狂的な男性ファンのエマに対して、セイはほぼ10割が女性ファンという女性アイドルとしては異質ながらグループでヒマワリに次ぐ人気を博す。


 全体的にネクジェネのファンは女性が多い。

 デビュー当時は小学生だったこともありツインテール担当のセイがネクジェネにツインテールはいらないんじゃないのかと主張する理由のひとつでもある。


 ヒマワリが音楽番組の打ち合わせに行ってる間もセイは練習に余念がない。


 その横で同じく熱心に体を動かすエマと目が合った。


「セイ、戻って来なくても良かったのに」


「エマが代わりにセンターやるのイヤなの」


 番組本番での絡みまで、それから二人の間に会話はなかった。


 ネクストジェネレーションは、とても仲の良い5人組アイドルグループである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る