そのろく

「……と、いう感じでした」

「うっわあ……」

 話を聞いた土精女王は微妙な顔で火精女王の顔を見た。

 そういえばこの女王はかつて召喚者の孫娘にギャン泣きされてから子供相手には妙に気を使うようになったし、泣かれると内心かなり落ち込むようになったんだよなあ、と目を遠くした。

「……マスターはその後も火属性の召喚を続けていますが、未だに猫は呼べていません」

「うわあ……」

「ちなみにマスターが火属性で二番目に呼んだのは人の子がちょうどひと抱えに抱きしめられるくらいの鳥でした。マスターは突然可愛いものを呼び出せた嬉しさに踊り狂い、はしゃぎながら私を呼びつけました」

「とり……鳥ってまさか」

「……私は呼び出されてから少しの間、それが蘇りをしたばかりの不死鳥神獣の雛鳥であることと、おそらく三日もかからず成鳥になることを言い出せませんでした」

「おうふ……」

 あの時のマスターのお祭り騒ぎっぷりはものすごかった、エアはマスターがあそこまで喜んでいるところをあの時以外に見たことがない。

「三日後、成鳥になった不死鳥の前で『大きくなれてよかったね』と半泣きで言っていたマスターの顔を今でも時々思い出してしまいます……」

 せっかく呼べた小さくて可愛くてふわふわした生き物がたった三日で立派で豪奢で大きな生き物になってしまったことに、マスターは内心ショックを受けていたようだった。

 しかし成長することは喜ばしいことだと不満やショックを飲み込み、半泣きになりながらも笑顔で「よかったね」と言っていた。

 いっそ泣かれた方がまだしようがあったのに、とエアは今でも思っている。

「マスターは冬が終わるまで火属性の召喚を行っていましたが、結局猫は呼べずに春になり、猫の召喚を諦め再びうさぎを呼ぶために風属性に召喚を行うようになりました。以降、春と秋はうさぎ、夏はアザラシ、冬は猫を狙って召喚を続けていますが……」

「結局ダメだった、ってわけね。ってかさー、なんでそのマスターちゃん、土の召喚はしてくれないの? そりゃここまですごい子ならほぼ確実に女王であるあたしを最初に呼ぶことになるだろうから、気がひけるっていうのはわかるんだけどさあ」

「それに関しては……マスターが言っていたことをそのまま伝えます。先に言っておきますが、マスターには土の精霊に関しての知識がほぼないことを頭に置いて聞いてください」

 エアは一呼吸して、絶対怒るのだろうなとどんよりしながらかつて自分のマスターが言っていたことをそのまま口にした。

「『またエア達みたいなすごいのがきたら嫌だし、それに土の精霊って硬くてゴツゴツしてそうだから……うん、そもそも呼ぶ理由がない』」

 エアの言葉を聞いた水精女王と火精女王も「あー、あのマスターならそういうこと言うだろうな」みたいな納得顔になる。

 一方土精女王は口をポカーンと開けた後、顔を真っ赤にしてわななき始めた。

「は、はああああああああ!!!? うちの子達が可愛くないって言いたいわけ!!? 確かにごつい子も多いけど、ふわふわももちもちも可愛い子も綺麗な子もいっぱいいるんですけどぉ!!!!? よりどりみどりですけどぉ!!!!!?」

「……それは知っているが、うちのマスターは知らないのです。というか呼びたくなったら困るからと意図的に詳しく知らないようにしているのです」

「ふざ……!! きいいいいいいいぃぃぃいい!! あたしだけひとりのけものだったのもムカついたけど、うちの子の認識がソレだってことがなんだかんだで一番ムカつく!!」

 土精女王はしばらく喚き散らしながら地団駄を踏んでいた。


「……で、なんでマスターちゃんはアンタらが女王だってこと知らないの? 保身のために黙ってたって感じじゃないっぽいし、そもそも契約の時に真名を名乗ってるんだから、普通に知ってて当然なんじゃ」

 いくらか落ち着いたがまだ膨れっ面のままの土精女王の問いかけに、他の女王達は深々と溜息をついた。

「……これに関しては、我らが悪いのです」

 そうして、エアは再び話し始めた。

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