そのよん

「……と、いうのが私がマスターに呼ばれた頃の話です」

 エアが一旦話を切ると、土精女王は難しい顔で「うーん」と唸った。

「……その子、めっちゃやばくない???」

「本人は至って無害ですが……女王三人に神獣を数体、そのほか強力な上級精霊と契約しているので……下手すれば世界がひっくり返りますね。マスターが何かする、ということはないでしょうが……もしも世界がマスターに牙を向くのであれば……私は容赦しません」

 断言したエアに同調するように水精女王と火精女王がコクコクと頷いたのを見て、土精女王は「ひええ」と小さく悲鳴を上げた。

「ちなみにそのマスターちゃん、目的のうさぎは呼べたの」

「あれから十年以上立ちましたが……いまだに」

「うっわぁ……」

「マスターはあの後も召喚を続けていました。そして季節は巡り、夏になりました。マスターは町に降りた際、町の人間が引き連れていた水の小精霊であるアザラシを見かけました。ひんやりとしてむちむちとした愛らしい生き物に目を奪われたマスターは、うさぎを一旦諦めてそのアザラシを呼んでみようと思い立ちました。……そして召喚されたのが」

「ワタシだったというわけなのだわ」

 水精女王がのんびりと手をあげる。

「あの時はものすごく驚いたのだわ。いきなり召喚された上に、ちっちゃな魔法陣であんなちいちゃいおこちゃまが召喚者だったのだもの……あとワタシの魔力を感知して風のがすっ飛んできたのもめちゃくちゃびっくりしたのだわ」

「私だって驚きましたよ」

 エアは頭痛を堪えるような苦々しい顔で額に手を当てた。

「……まあ、個人的にはマスターがワタシの後にリヴァイアサンを呼び出したことの方がびっくりだわ。……あの子、なんならワタシよりも呼ぶのが難しいのに」

「うっわあ……水の神獣も呼んじゃったんだ……アザラシ目的で……」

「はい。マスターは夏が終わるまでずっと水属性の召喚を行っていましたが、結局アザラシの召喚は成功せず……秋になり再びうさぎを召喚するために風属性の召喚に切り替えました。……そして季節はさらに巡って、冬が訪れたのです……」

 そう言ったエアの顔がやけに沈鬱なものだったので、土精女王は思わず首を傾げた。

 周囲を見渡すと、他の二人も似たような表情をしている。

 特に、火精女王が重苦しい顔になっていた。

「え? なにどったの? 一体なにがあったの!??」

 土精女王が半ば悲鳴を上げるように問いかけると、水精女王が額に手を当てて呟くようにこう言った。

「あれは……あれは……嫌な事件、だったのだわ」

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