case1 「Endress Dream」~パート3・夢神能~

 朦朧もうろうとした意識が返ってくる。辺りは暗い。どうやら夜の街が舞台らしい。俺は周囲を見渡して仲間が無事到着していることを確認する。


『総員到着を確認した。これより夢陥者むかんしゃ救助を実行する』


 耳元の小型無線機から現実世界の優美ゆうびさんの声が聞こえてくる。俺は目をつむ夢想状態むそうじょうたいに入る。敵がどのようなタイプか分からない以上、武器は中距離でいいだろう。頭の中でAK-47(世界で最も多く使われた軍用銃)をイメージする。その刹那せつな、俺の手にはイメージした通りのAK-47が握られていた。

 これこそが、夢の最大の特徴とも言える自分が指定した能力だ。この能力は〈夢神能モルペウス〉と呼ばれていて、俺の場合は〈武器錬成ぶきれんせい〉、イメージした武器を具現化できる。


「やっぱりいつきの〈武器錬成〉はすごいわぁ。うちなんてちょっと身体強化するだけやもん」

「ほんとにな。自己強化タイプの俺らじゃ理屈が分からん。」

 少し関西弁が混ざっている少女は華咲昴はなさきすばる。ボーイッシュな見た目と口調、そして名前からかよく男子と間違えられるが、本人はさほど気にしていないらしい。

 もう1人の自己強化タイプの少年が古月創也ふるつきそうや。スポーツ全般が得意であり、現実世界の高校では部活にこそ入っていないものの、運動部に助っ人として毎日のように連れて行かれている。


 ちなみに、〈夢神能モルペウス〉は自分で好きに設定できるとはいっても、夢に抱く思いの大きさによって強さが異なる。


『まずは夢陥者との合流だ。生命反応が出た地点をお前らの脳内に送っておいた。各自確認しろ。リーダーは樹だ。心してかかれ』

 頭の中に情報が流れ込んでくる。俺はリーダーに指定されたということで、ひとまず皆をまとめるために振り向く。

「聞いた通り、俺がリーダーだ。陣形を伝えるからまとまって行動するぞ。まず、〈夢神能モルペウス〉が攻撃的な俺と創也そうやが前衛、ヒーラーの夢香ゆめかと後方支援の夙也しゅくやを囲うように左右に小鳥ことりすばるが、最後尾には真昼まひるが着く形だ。何か異論は?」

「おい、樹。既に2人で進んでいる奴らがいるが、どうするんだ」

 創也の指摘を受けて俺は振り返ると、夙也と真昼が既に50m程先を歩いていた。

「また、あいつらか…。あの馬鹿どもめ」

 俺は、はぁ…と大きなため息をつく。


 先に進んだ馬鹿の内、男の方は、夢寐夙也むびしゅくや。メガネをかけており、長身でスマート。頭の回転が非常に速く、常に冷静沈着で非常に憎たらしい。

 もう1人の馬鹿の名は胥真昼しおからまひる。黒髪ロングで大和撫子やまとなでしこを体現したような清楚系美人。無表情で感情がとぼしいくせに、何をやってもになるので非常に憎たらしい。


「でも、あの2人コンビネーション抜群ですし、放っておいてもいいんじゃないですか。後、樹君より頭が良いから馬鹿呼ばわりは良くないんじゃないかなぁ」

「確かにそうだな。でも、最後の一文は余計だったぞ」

 勇猛果敢ゆうもうかかんに俺に口答え(主観)してきた少女は小鳥遊小鳥たかなしことり。小動物のような仕草から場のなごませ役になっている。


 とまぁ、気付いたら全員紹介し終えていたので結果良し。

「代わりの陣形は夢香を四方で囲う。創也には後ろにまわってもらう。てなわけで、出発だ」

「「「「了解!」」」」




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