大好きだよが言えなくて

川谷パルテノン

言えた日

「ねえねえ、芸能人でいうと好きなタイプって誰?」

 しょうもない質問だと思った。こんな話題にうつつをぬかしている間に私たちの十代は終わっちまうんだぞと。順番に答えては「わかるー」だのなんだのとはしゃいでいる。なんだかんだでグループに属している私もまたこいつらと一緒だ。

「ねえ、ヒロミは?」

「え、えっと、その」

 ヒロミは私たちの中でもすんごい大人しい小動物のような女でこういう話題はニガテだった。その点は共感するが、なんというかハッキリしないとこがあって結果的に相性がよくないと私は感じていた。

「なに〜? 恥ずかしがんなって 誰〜?」

「その、みんな、しらないかも」

「言ってみー 言え! 言え! 言え!」

 バカがよ。こんなもん半分イジメみたいなもんじゃねえかと喉元まで出掛かっていた。ヒロミもハッキリしろよ、言いたくないなら言いたくないと言え。

「ピーター……」

「え? ガイジン?」

「ピーター"ネイビー"トゥイアソポポ」

 私の中でイナズマが轟いた。聞き間違いだろうと思おうとした。

「ピーター"ネイビー"トゥイアソポポ。実写版のストリートファイターⅡでエドモンド本田役だった人」

「誰それ?」

「え あ だよね 知らないよね」


 ヒロミ もういい


「あ でも芸能縛りじゃないなら戦闘竜とかも好き! 元力士で あ ヘンリー・ミラーのことね!」


 もうやめろ


「格闘技ならマイティ・モーも好きだよ! 怒濤のサモアンフックの!」

「ヒロミ! もうわかった! ちょっとこっち来い!」

「え え え?」

 

 私はヒロミの腕を引っ張ってトイレの中まで連れてきた。


「どうしたの? スズちゃん? なんで泣いてるの」

「私は……私もトゥイアソポポが好き」

「うそ! ほんとに?」

「トゥイアソポポ経由で持ちキャラが本田。戦闘竜もマイティ・モーも無論好き ヒグッ わ 私は 自分が恥ずかしい!」

「ええ え 何なに? ねえ泣かないでスズちゃん」

「わだじは! お前が あああ ひっ 引っ込み思案の 小心者 しょ 小心 うわああん」

「ね 落ち着いてスズちゃん わけわかんないよ」

「小心者だと 思っていた! だけど 違った わたし わたしこそ 意気地なしの臆病者だ! お前は アイツらのまえで 勇気を持って! ひっく ひっく 勇気を持って真実を言った! それなのに 私は お前をぐ 愚弄してしまった! すまないッ!」

「待って ねえ 頭を下げないで ね スズちゃん? 私うれしいよトゥイアソポポ好きな人がこんな近くに それも友達にいてくれたなんて」

「ヒロミ、ダメだ 私はお前の お前の友なんかじゃない! 私は」

「そんなことないよ。スズちゃんは友達だよ」

「ヒロミ 許してくれるというのか 償わせてくれるというのか ヒロミ! イチから! もう一度! 私の わたしと 友達になってくださいッ!」

「スズちゃん……ううんなんでもない ありがとう こちらこそよろしくお願いします」

「ヒロミ"ィッッイイイイイイイイ!!!」



「ちょっとあんたらさ! 人がウンコしてっときにルッサイんだけど!」

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大好きだよが言えなくて 川谷パルテノン @pefnk

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