7 出発の前に
7 出発の前に
「えっと、バスカード、学級委員長カード、学級委員長パソコン、500mlのお茶10本、Wi-Fi、パソコン、部屋鍵、しおり。よし‼行って来まあす‼」
「はい、いってらっしゃい‼気を付けてね‼」
「うん‼」
こう見えても私、学級委員長なんです。
今日は06:43に家を出てしまった。
雲一つない晴天。
ふぅっ、大きく息を吸ってみた。
いい空気だなあ。
自分の部屋に、100個てるてる坊主飾ったからかな。
すんごい旅行日和じゃん。
そう、今日は四月十九日。
あの旅行の日が、ついに来ちゃったんだよ‼
めちゃくちゃ楽しみで、ついついスキップになっちゃった‼
学校に着くと、蒼也が一人昇降口に佇んでいた。
「はよっ」
アイツも興奮気味なのか。
語尾に『っ』がついてる。
「はよー!」
私も上機嫌。
笑顔でそばに行く。
「…樹々、やけにそれデカくない?」
「まあね。バスカード、学級委員長カード、学級委員長パソコン、500mlのお茶10本、Wi-Fi、パソコン、部屋鍵、しおりだもん。」
「……何のためにWi-Fiとパソコン持ってくんだよ…。」
「別にいいじゃん。…あ、そうだ」
「何?」
「音楽室行ってくる」
「は?先生に聞いてないだろ。」
「聞いたよ?」
「いつ?」
「四月十日。」
「お前十日後のことも見据えてんのか。」
「見据えてるよ。」
「…感心していいのか、呆れたほうがいいのか、どっちか分かんねえ。」
「…確かに。」
ふふっ。
笑い合う時間が、私は一番好き。
「じゃ、行ってくるね」
「いやこれで行くのかよ‼」
「いや何で行っちゃダメなの?」
「いやいや普通ダメだろ…やっぱ呆れたほうがいいのか」
「ちょっと呆れないでください感心してください」
「やけに早口に聞こえるのは気のせい?」
「いや、気のせいじゃないと思う」
今まで、流れで蒼也と漫才みたいなのやったことは、何回もあるけれど、こんなに弾んでいい感じに進んでるのは初めてだ。
…って、私何話してるんだろう。
早く音楽室行かないと、やる時間なくなる!
「じゃ行ってくるわ」
私がそう言うと、蒼也がついてくる。
「何?」
「オレも行く」
「さっきまで反論してたくせに‼」
あははは……。
二人のその笑い声は、まだ誰も来ていない学校内に、波のように轟いて行った。
音楽室に着いた。
階段上がるのキツイよぉ。
ま、音楽室も4-3もどっちも三階だけど。
思ったけど、私立だからって、階も多いし、クラスも多いし、人数も多いし、校舎数も多いという、なんともいえない変な学校に入ってしまった、みたいな感情が胸の中でグルグルと渦巻いている。
コンコン
二人同時にノック。
蒼也がドアを開ける。
ガチャ…
ドアノブが回って、ドアが開くってことは、音楽の先生=野仲先生が、自分で所有している合鍵で、もう室内に入っているってことか。
(ちなみに、ホントの鍵は、職員室にかけられていて、野仲先生は何かしらと面倒臭めんどくさがるから、自分でサクッと合鍵作っちゃって、それを毎日使っているっていうのを聞いたのをどこで聞いたのか忘れちゃった)
「は~い」
聞きなれたのんびりした声が音楽室の中で発せられる。
野仲先生は、私が三年生になったと同時に、音楽の先生になった先生。
「失礼します。四年三組久保樹々と、」
「池川蒼也です」
「七時半までピアノ、弾いてもいいですか?」
「いいよ~」
またのんびりと言ったから、そのまま準備室で紅茶でも飲むのかと思いきや、先生は思い出したように準備室に入って行って、何かの紙を取り出してきた。
「そうそう、あのさ、二人に頼みごとがあるんだけど」
「何ですか?」
「八月二十四日に、キラピカコンサートあるじゃん?」
「はい」
キラピカコンサートとは、いつも野仲先生が主催する、音楽クラブのコンサートのこと。
柳桜第二小には、音楽クラブがあって、入りたい人だけ入って、アルトホルンとか、パーカッションだったりとか、フルート、クラリネット、等々色々扱って、音楽の能力を磨くクラブ。
キラピカコンサートは、その実力を発揮するコンサート。
「それで、樹々ちゃんと蒼也くんに、オルガンのメロディーと伴奏をやってほしいんだ」
「「ええっ⁉」」
二人同時に驚く‼
あの、あのキラピカコンサートの、オルガンの、メロディーと伴奏を頼まれるって私たちそんな才能ないよ⁉
「……あ、ダメ?ごめ…」
「「やりますやりますやります‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」」
「あら、ありがと‼早速だけど、これ一人用の楽譜。もう一つ印刷したいんだけど、面倒臭めんどくさくてさあ……」
野仲先生が助けの眼差しを向けてくるけど、私と蒼也は同時に首を振る。
多分野仲先生は、
『印刷してきてくれない?』
って言ってて、それに私と蒼也が、
『すみません、今日から五日間四年生旅行で。』
と、答えたのだ。
野仲先生、分かってくれたかな?
「OK。今から練習してほしいから、旅行先、樹々ちゃんと蒼也くん、京都のホテルでしょ?」
「「はい」」
「じゃあさ、地下一階にホールがあって、他に誰も知らないから誰も来ないはずで、そのホールにピアノが一台置いてあるから、そこで練習してくれる?」
「「はい!」」
私と蒼也は好きな曲を弾く予定だったけど、頼まれちゃったら今もやるっきゃない‼
「じゃあ、ここで早速、七時半までやります‼」
「OK、先生は準備室でスマホいじってるから、なんかあったら呼んでね~」
「「はい‼」」
…旅行で忙しいことが増えたな。
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