6 運動会

「はいっ、二時間目の学活は。旅行も関連してますが、運動会の話をしちゃおうと思います‼」

「やったー‼」

そう、このやったーは私も言った。

だって、毎年楽しみにしている運動会が、五月にあるっていうさ。(いつも五月じゃんか‼)

「運動会は、赤組、青組でやろうと思います‼」

「お~‼」

「三年の時は赤組と白組だったのに!」

そんな声が飛び交う。

まあ、ここ一応私立だし?組が変わることもあるよね。

おお、運動会なんて聞いてなかったからなんかすごく楽しみ‼

「…です‼」

え?え?何組か聞いてなかったんだけど。

「青組だってよ。二年生四年生六年生で」

私の心の中を察す超能力を持っているのかと思うくらいの図星でズバリちゃんとした答えを出してくれた蒼也に私は驚く。

運動会かー。

もうそんな季節だね、桜も結構散っちゃってるし。

「次は、競技です。」

いつの間にか先生が言っていた。

「競技は、80m走男子二人女子二人、団体400mリレー男子二人女子二人、借り物競走男子一人女子一人、障害物競走男子二人女子二人、二人三脚男子四人女子四人、ムカデ競争男子二人女子二人、玉入れ男子二人女子二人、綱引き男子二人女子二人、大玉送り男子二人女子二人、大縄跳び男子二人女子二人です。この中から一人一つ、選んでください。但し、団体400mリレーは、先生たちのほうでリレー選手を決めるので、結果的に、80m走、借り物競走、障害物競走、二人三脚、ムカデ競争、玉入れ、綱引き、大玉送り、大縄跳びになります。」

4+4+2+4+8+4+4+4+4=38。そう、ウチのクラスの児童数は38人なのであ~る。

私立のくせに、めっちゃ多いんだよね、生徒数。

四年生では、この40人程度のクラスがウチ入れて4組くらいある。

「まず、80m走やりたい人~。」

「ハイ‼」

お。やると思ったよ。

足の速いクラスメイトの夜桜光希くん。そんなに目立ちたくないらしいけど、走ることになると急に熱血になるんだよね。

三年生で初めて光希くんと同じクラスになったグループは、みんな驚いてた。

『うわっ、めっちゃ情熱的じゃんか‼』

『すごい‼まあ、光希くん足速いしね‼』

って。

「他には?いないの?先生がランダムで決めちゃうよ?」

そう言うと、

「ランダムはヤダー‼」

って言って、結構な人数が立候補してくる。

立候補したのは、足が意外に早い輝くんと、I don't like Blue. がモットーの、あるクラスメイト。そして心遥に、愛華が立候補している。

そこからはジャンケンだ。

「最初はグー、ジャンケンぽい‼」

「うがー‼」

「やったー‼」

「負けた人は二周目まで待ってくださいね~。」

「は~い。」

勝ったのは、光希くんと、輝くんと、心遥と、愛華。

「はい、80m走は、夜桜光希さん、朝川輝さん、星野心遥さん、鳥川愛華さんです‼」

先生が高らかに告げ、黒板に書いていく。

「次、借り物競争やりたい人‼」

「ハイ‼」

手を挙げたのは、問題児の加司昭登に、希美花、そしてまたもや問題児の吉川創吾。

ということは、希美花は決まりってわけね。

良かったじゃないか。

……でも問題は、問題児軍団。

「はいじゃあ創吾くんと昭登くんジャンケン」

「さーいしょーはグー、ジャーンケーンぽい‼」

勝ったのは昭登だけど、ここからケンカが始まることを、クラスのみんなが知っている。

「おい昭登あと出ししたろ!」

「あ?何言ってんだよ⁉」

「いやお前自覚してねーのか⁉バカだな‼」

「だってオレあと出ししてねーよ‼お前のほうがバカだろ‼目ぇ見えねーのか‼」

いつもの言い合い。

言い合いが始まるのが分かっていて、昭登が勝った時からクラスのみんなは本を読んだり、メモ帳に黒板に書いてあることを写したり、隣の席のことひそひそ話をしていたりと、そんなことしても先生に怒られないからやりたい放題でみんなそれぞれやりたいことをしている。

ちなみに私は小説読んでるけどね。


先生が色々言って結局二人とも採用しないことになったらしい。

「他には?いないのー?」

「は、はい‼」

手を挙げたのは、意外な人だった。

私の席の前の加司蒼志。

足は速いけど、80mやんないらしいから何やるのかなと思ってたけど、借り物競争やりたかったのか。

それとも、希美花をライバル視したかったのか。

二人はすんごく仲が悪いんだ。

大丈夫なのかな、練習とか。

「はい、他にはいないねー?」

教室の中は静まり返る。

「じゃあ、借り物競争は加司蒼志さんと佐野希美花さんです。」

ほほう。

希美花頑張れ。

「はいじゃあ次障害物競走。やりたい人いない?」

私は障害物競走をやりたかったから、手を挙げる。

他には、蒼也、琴姉、長瀬健人というクラスメイト(安澄ちゃんの好きな人)、安澄ちゃん(長瀬が好きらしい)、井下が立候補。

ジャンケン。

「最初はグー、ジャンケンぽい‼」

クラスのみんなが見守る中、勝負はこれで決まった。

私→グー 蒼也→グー 琴姉→チョキ 長瀬→グー 安澄ちゃん→グー 井下→チョキ

ということで、障害物競走は、私、蒼也、長瀬、安澄ちゃん。

「はい、障害物競走は久保樹々さん、池川蒼也さん、長瀬健人さん、相原安澄さんです。」

運動会でも蒼也と練習できるんだと舞い上がっていて、その後のことは聞いていなかった。


その後の業間休み、私は意味の分からないものを見てしまった。

私と蒼也、安澄ちゃん、琴姉、未知姉、心遥、希美花、愛華で鉄棒をしていた。

私がやっていた技は空中前回り。

蒼也が不意に、

「ちょっと休憩するわ」

と言ってみんなが不審そうな顔をする。

私はそのまま空中前回りを続けていた。

蒼也がすぐ前の水道の壁の裏に行く。

そして、キラッキラの笑顔を出し、ガッツポーズをして、風で聞き取り不可能になってしまった声を発す。

「…と…も同じ、は…じ、ペ…なじ、そ…とってうれ…っしょ‼」

と言った。

は?

何言ったの?

気になって私は一度前回りをするのをやめて、青空を見上げながら考え込む。

結局思いつかない。

「樹々、だいじょーぶ?」

「樹々ちゃんどうかした?」

「樹々姉?」

「どーしたの?樹々姉」

「樹々姉大丈夫ー?」

「しっかりしてよ樹々姉?」

みんなに心配されて、ようやく私は我に返った。

「あごめんだいじょーぶ」

早口でそう言うと、

「「「「「「それなら良かった」」」」」」

皆の声が重なった時、私に少し聞かれてたことを全く知らないような平然とした顔をして壁の後ろから出てきた。

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