4 嬉しくない日々

「樹々‼」

「樹々姉‼」

私が椅子に座っていると、後ろからこんな声が聞こえてきた。

あーもう、今度は何よ?

樹々と呼んだほうは琴姉こと杉山琴音。優等生で美人。

樹々姉と呼んだほうは未知姉こと笠原未知歌。友達想い‼

二人とも、私が組んでいるニセ姉妹の姉の二人だ。

なのに、未知姉はなぜか妹の私のことを姉をつけて呼んでいる。

何回聞いても『そのほうがしっくりくる』って言うんだよね。

「もー、何?」

「「「樹々姉‼」」」

「「「うわわっ」」」

いきなり猛スピードで突っ込んできたとある三人に、私たちはビックリする。

今突っ込んできた三人も、ニセ姉妹に入っている。

四女、星野心遥。高身長で何でもできるんだ‼

五女、佐野希美花。すごい優等生なんだよぉ‼

六女、鳥川愛華。みんなの憧れの的なんだよ‼

「で、何?」

私が姉たちに聞く。

「えっと、さっき見たやつでさ、ちょっと見て欲しいものがあって」

「「「「見て欲しいもの?」」」」

「まあまあ、こっち来なよ」

「とりあえずさ、見れば分かる」

「何よ~」

あー、完全なる日常的な感じね。

タッタッタッ

「うわ、何これ‼」

「めっちゃ楽しみなんだけど‼」

後ろの小さめの黒板。

そこには、こう書いてあった。

『柳桜第二小4年生限定‼わくわく旅行‼

四月十九日~四月二十三日

行先は先生がランダムで決めます‼

北海道・京都・大阪・淡路島・沖縄

です‼

※保護者さんの了承はもう取ってあります※』

めちゃくちゃ楽しみなんだけど‼

しかも、バス席・班・場所・部屋発表は十日だし‼

友達に呼ばれそっち側に行った妹たちを見送って、琴姉は聞く。

「ねえねえ、未知たろ(琴姉だけの未知姉の愛称)、バス、誰と席隣がいい?」

すっごく小声だったけど、ちゃんと聞き取れた。

「えー、あたし、井下がいい‼」

「だろうねぇ~」

そう、未知姉は井下遊樹という4-3のクラスメイトが好きなのだ。

そのことは、ニセ姉妹みんなが知っている。

まあ、クラスメイトの朝川輝くんのことも好きらしいけど。

「え、じゃあ琴姉は?」

小声で未知姉が聞き返す。

「いやー、それは池川でしょ。池川以外にないでしょ」

ギクッ。

蒼也の名前が出てきた。

ぎょえっ。

分かってたけどさ。

ほわっ。

「で、樹々は最初から知っていますよ。池川でしょ?」

ギクッ。

図星でござる。

何故分かる。

第六感でもあるのか、私の姉は。

怖いわ。

「う……うん…………」

この消え入りそうな声は、そうしようと思ってしたわけではなく、ただ何も意識せずにそうなっただけだ。

キーンコーンカーンコーン……

その時、私を救うように、チャイムが鳴った。

いたずらっぽい顔で、琴姉は私の二つ後ろの席に座っていった。

その日から10日までは、何も楽しくなかった。

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