5両目
両手でつり革にぶら下がり、ぼんやり外を見ている背中にドンと何かが当たった
目の端で確認すると、真後ろに立った男の背負っている黒い荷物が見えた
それが、揺れに合わせて背中に当たる
特に痛くはなかったが、ゴツゴツした感触と鬱陶しさが気になって横へ一歩移動した
するとラッキーな事に次の駅で目の前の席が空いたので腰掛けると、丁度良く大荷物を背負った男が視界に入った
大きい黒い荷物
あれが背中に当たってたんだな
居るよな、混んでるのに下ろさない奴
しかし、やけに大きい荷物だな……
そう思ってついじっと見た瞬間、思わず声が出そうになった
荷物では無かった
ぶら下がっていたのは真っ黒い着物を着た人間だった
疲れきったスーツ姿の男の背に痩せ細った老婆しがみついていた
どういう状況か分からず目を離せないでいると、突然、老婆の首だけがガクンと後ろに倒れ、骸骨のような顔がこちらを向く
血の気の無い皮膚
だらしなく開いたままの唇
血走った白目がぐるんと回転し、現れた真っ黒な目玉と視線が合う
同時に老婆の顔が口の端を上げて醜く歪み、ガサガサした音を吐き出した
「ツ……ギ」
そこで意識を失ってから、何故か体が重い
鏡を見ても何もない
でも何故か……体が……重い
電車の怪 清江 @kiyo-e
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