先輩は変人ですから、仕方ありません

 放課後の美術室。

 一組の男女が並んで絵を描いている。


「先輩、私って可愛いですか?」

「可愛いな」


 思春期なら思わず否定するか誤魔化してしまいそうな直球の質問に、その男子は間髪入れず答えた。

 なお、この二人は付き合っていない。


「私が告白したら成功すると思いますか? 相手に彼女はいないとして」

「んー、分からん。俺なんかは、相手がどんなに可愛くてもよく知らない相手ならそう言って断るってあらかじめ決めているが」

「『よく知らない相手からの告白は断るって決めてるんです』って? 何でですか?」


 気になる相手からの認識をリサーチするつもりの質問だったが、少女は後回しにした。

 そっちはまた今度聞けばいいし。


「本当に好きでいてくれたなら『それじゃあお友達から~』って流れに持って行ける回答だが、嘘告ならまず間違いなくしらけるからだな」

「先輩を騙すために長期計画にシフトする可能性は?」

「少なくとも罰ゲームなら時間かけても飽きるだけだからな。多分ないだろ」


 少なくとも彼とって、自身にそれだけの時間を割きそうな人物は目の前の少女ぐらいなものだった。

 この辺り、互いの認識に齟齬そごがある。


「それで、実際のところ告白されたことはあるんですか? ……嘘告も含めて」

「ないぞ」

「今の話は何だったんですか?」

「むしろ告白されたことが無いからこその保険だな。よく知らない相手なら嘘告の可能性がだいって事だし」


 別にこの話題は地雷でもなんでもない。

 空気が悪くならなくて良かったと、男子の方は安堵あんどした。


「ひねくれてますねぇ……(今のは私が先輩の心の傷を癒やす流れじゃなかったの?)」


 しかし、少女の手は止まっていた。

 先輩のポイントを稼ぐチャンスだと思っていただけに。


「まぁ、それでも本当に告白してくれた可能性を捨てていない辺り、先輩も男の子ですよね」

「否定はせん。やはり美少女に告白されるのは男の夢だからな」

「それを堂々と言う辺りは先輩らしいですよね」


 この二人の会話は、割と遠慮えんりょがない。

 信頼の表われとも言う。


「お前が相手だからな」

「……(え、もしかして口説かれてる?)」


 少女の頭は一瞬ショートした。

 やはり遠慮がない。


「ぎゃ、逆に先輩が告白したことは?」

「ないぞ」


 少女の頬が僅かに緩む。

 目指すは、最初で最後の彼女。


「ちなみにこれからする予定は?」

「ないぞ」


 頬はそのままに、少女の目から光が消える。

 しかしこの程度でくじけるわけにはいかない。


「……目の前の可愛い後輩に思わず告白したくなったりはしませんか?」

「え、先輩から告白されるとか怖くない?」

「……?」


 交わる視線。

 二人の目に映るのは、互いの疑問符のみ。


「……パワハラ的な話ですか?」

「あー、多分そんなイメージかも」

「先輩にそこまでの権力はありませんよ」

「それはそうだけど、そうじゃないような……」


 告白一歩手前のような質問は流れ、また否定はしていない返答も流れた。

 全ては何処どこぞの変人が悪い。


「先輩」

「……なんだ後輩」


 再び交わる視線。

 男子の方はちょっと目が泳いでいる。


「先輩から見て、私は可愛いですか?」

「……ああ、可愛いぞ」


 彼は先ほどとは異なり即答は出来なかった。

 少女がよく愛してるゲームを要求するので慣れているはずなのだが。


「……何番目くらいですか?」


 少女は自身を奮い立たせ、もう一歩踏み込んでみた。

 今度はのがさないとばかりに、赤くなった顔をずいっと寄せる。


「……一番だよ」

「んふふ」


 それは先輩としての矜持きょうじか、それとも男としての何かか。

 目をらさずに答えた男子に、少女は満足げに笑う。


「先輩。今日はここまでにして、寄り道しませんか?」

「いいよ。ファミレスとか?」

「夕焼けが綺麗に見える場所があるので、そこに」

「……いいね。今から出ればちょうど見れるかも」


 この日何があったのかは、二人だけの秘密である。

 翌日の美術室にも一組の男女の姿があった。


――――――――――――――――――


 地の文を二文ずつで統一してみました。

 一話だけだから出来る遊びかも知れません。

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