短編
天使と悪魔と解釈違い
「皆さんおはようございます」
「おはようございます。後ろ通るので席を引いてください」
「……あぁ」
はずなんだがな。非常に残念ながら、俺はお目に掛かる機会に恵まれた事はない。
……冗談はともかく。
恐ろしく整った
お手本を通り越して
そんなことを考えていると、見知った顔がヘラヘラと近づいて来た。
「よ、
「まず顔がうるさい」
「ひでぇ」
悪魔、というのはこいつが二人だけの時にふざけてする呼び方である。多分、天使との
目つきの悪さ、
毎朝欠かさずこいつが悪魔
悪い噂を流された事も……多分無い。情報網が足りて無いだけかも知れないが。
避けられている事を気にする性格でも無いし、直接的な嫌がらせを受けた事があるわけでも無い。
ありがたい……というか
「それにしても、天使様は今日もマジ天使だよなー」
彼女自身の人気度の事か、俺に対する行動の事か。きっと両方だろう。
「あまり気にしたことなかったが
「笑顔
「……なんだそれ」
「今、適当に考えた標語。でも、多分そんな所だろ」
気がついた頃には定着していたから聞いてみたが、アイドルのキャッチコピーのようなものが返ってきた。俺の事を無愛想と言うが、人当たりの良さに反して
ちょっと試してみるか。
「常に笑顔って、笑ってないのと
「……場合によっては本当に悪魔
そう言いつつも顔には苦笑を浮かべている辺り、思う所があるのかも知れない。
「お前本当、その
「つまり今のところ、俺がモテる
学校の成績は天使に
問題なく優等生と言え、高校生の
モテるのは教師に対してのみである。もちろん、一生徒として。
「まぁ、お前か男
「それだとただの下位
それらを
◇
いつも通り
そうして放課後。学校全体での一斉委員会があったのだがほとんどする事もなく、それもあっという間に終わってしまった。
そんなわけで、今日もまだ明るい時間に帰れそうである。
ちなみに例の天使は同じ委員会なのだが、解散と同時に教室から出て行った。姿勢の良さもあって
「……俺宛てかよ」
淡い暖色系のお洒落な封筒は何処となくラブレターの雰囲気を
「……俺に対してよりは、差し出し人に対してかな。あとは罰ゲームとかか」
つい、独り言が
俺の扱いはいじめや
そう結論
とりあえず中身を確認しよう。
折り
ーー今日の午後5時15分。東棟屋上にてお待ちしてます。ーー
時間、場所。
それ以外の、目的や名前といった情報は一切なかった。文章も普通の敬語で誤字がある
……まぁ、本人に聞けば良いか。
下駄箱の前で悩んでいても邪魔になるだけなのでさっさとその場を立ち去る。屋上の扉を前にしてスマホを取り出すと、録音アプリを起動する。
「
特に変わったことのない日常で終わるはずがここに来てイレギュラーが発生したため、どうしても警戒心が
声に出したのは、見ているはずのない誰かへの言い
腕時計を取り出し、
突然明るくなった視界の中央で、風に髪を
◇ ◇
屋上に足を踏み入れて十分程度。
俺は予想の斜め上の光景を目の当たりにしていた。
……
「で、もう一度言ってくれるか?」
「その目が、凄く興奮するんです」
人によっては
……
「なんだ、変な性癖
「せっ……! 仮にも自分のことを好きと言ってくれている女子に言うことじゃないですよ?!」
やべ、驚きのあまり
「すまん間違えた。随分と特殊な趣味だな」
「……改善する意思があまり見えないのですが」
このままだとどうしようもないな。
ひとまず状況を整理して落ち着くことにしよう。
屋上には天使がいた。警戒しつつも近づくと、告白された。
天使のジト目を見た生徒は俺が初めてだろう。謎のカミングアウトのせいで
「よく変な
「……最初はたまに
「……」
それはさておき。目つきが好みだから付き合って欲しいというのは、何とは無しに違和感を覚える。
天使は人気者の例に漏れずよく告白される。それはもう、話し相手の少ない俺の耳にも入るくらいには。その中には見た目に吸い
……まぁ、目つきがどうしても
「他人行儀でなく、
「俺はどう考えても他人行儀だったと思うが」
不躾だのというのは、欲望が前に出るタイプの思春期男子の事だろう。自分はそのタイプではないとは思うが、親しくもなかったはず。
「そういう意味ではなく、常に顔色を
「あぁ、なるほど……」
結構な地獄とも言えるな、これは。
「成績優秀、品行方正、口は悪いものの根は優しく、周囲に気を
今度はなんだ、何かの標語か……?
自然と眉を
「あなたのことですよ。客観的に見て目つき以外はモテる要素の多いあなたが、その目が好きという女子に好かれないと考える方が不自然なのでは?」
そう言われるとそうなのかもしれないが、人に好かれたことがない俺にはよくわからない。
「天使の割にイケメンに
「私も女の子ですからね。倍率一倍なのでありがたい話です」
モテなくて悪かったな。
「……ところで、一世一代の初告白をした私は、まだ返事を頂けていないのですが」
「え、再確認だけど、マジなんだよね?」
いや、ここで聞き返すのは良くないって分かってはいる。いるんだが、どうにも踏ん切りが付かない。
「当然です。そのためにここまで回りくどい説明までしたのですから」
まったく……とでも言いたげな表情はしていたが、不思議と不機嫌でもなさそうに感じた。普段と違いよく変わる表情は、普通の少女のそれだった。
「色々
「それでこそあなたですね。ありがとうございます。
「それでこそって、なんだそれ」
「こちらの話です」
そう言った彼女は何がおかしいのか、くすくすと笑っていた。
◆
「はぁ……」
体験そのものは多くとも、
そこで大成功を
好きになった理由について、あっさり引き下がってくれて助かりました。私だって普通に彼を好きになったのですが、分岐点とも言えるきっかけはありました。そこまで掘り下げられたら恥ずかしくて
枕に顔を埋めたまま床に手を伸ばして鞄を
「えへ、えへへ」
やばいです。他人には聞かせられない笑い声が口から漏れ始めました。極度の緊張状態にあったことで冷静になっている自分がいるにもかかわらず、頭の
彼は今、同じくらい私のことを考えてくれているのでしょうか。目つきの悪い彼が枕に顔を埋めて赤面しながら恥ずかしそうに何かから目を
これは本格的にやばいですね。あまりにも浮かれていると、明日から学校でのキャラが崩壊してしまいます。
もう手の届かない所から
たまに声を掛けて私がいる事を無理矢理にでも意識させるだけでもない。
これからは彼の彼女として隣に立つことができる。
そう思うと緩んでいただけの頬が引き締まり、自然とスマホに手が伸びた。
ーー明日、登校前にお話ししませんかーー
彼の横に並ぶために。
余談ではあるがその頃、とある男子生徒は録音アプリを使い、その日あった事が夢ではない事と確かめていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
定番とも言える美女と野獣スタイル。
○○に似てる! と言い始めたら候補が多すぎて絞れなさそうですね……
短編集の最初に使うには地の文が多過ぎるのではないかと思ったものの、書きたかったのでこれにしました。
短編が沢山積み重なる頃には、もっと上手く書けるようになることを期待して応援して頂けたら幸いです。
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