第29話 新たな力と新たな知識






 祝賀会の翌日。

 コウとレナは良く寝られたらしく、スッキリとした顔をしている。


 一方のシオン王女は一切寝られなかったらしい顔色が悪い。


「で、何で近衛兵長様が来てるんですかね」

「AM整備の視察だ」


 どうやらスピルリナ軍はコウの納入した新型機、トルトニスの独自機構に戸惑っているらしい。

 オーラは数人の部下とトルトニスを引き連れてレーヴェを訪れていた。

 そちらはアイオーンとプレンティに任せてコウは別行動を取っている。


「私はコウの方に付けと言われている。同行しても大丈夫か?」

「良いぞ。拾い物の調査だから面白いかどうかは分からんが……」


 コウはオーラを引き連れてトルトニスとは別の格納庫ブロックへ向かった。

 そこではドレインソードを持ったノイント・エンデが待機している。


 周囲をにはヴァイス・ブリッツとシュトロームも同様にスタンバイ状態となっていた。


「物々しい雰囲気だな……」

「あの剣、捕獲する時に暴れまわってたんだよな」


 コウはバイカルでのログをオーラに見せる。

 非常に激しい状況に顔を青く変化していった。


「そんな物を収容して大丈夫なのか……?」

「アイオーンの報告だと変化は無いみたいだし、多分大丈夫だろ」

「はい。正確には発光量が僅かに低下しています」


 柄を握って再度エネルギーを送り込めば回復するらしく、原因は貯蔵エネルギーの自然消費によると推察されている。

 そして今回は本格的な調査の為、一度エネルギーを空にする事となった。


 コウはノイント・エンデへ乗り込み、両手で掴んだドレインソードを格納庫内に仮設されたワープゲートに向ける。

 オーラはシュトロームのコックピットに座らされた。


「よし、んじゃ……エネルギー開放ッ!」


 柄に増設されたトリガーを機体が引く。

 刃の根本から大量のエネルギーがワープゲートへ流入した。


「流石はコウ殿の機体、凄まじいエネルギー量だな……」

「だろ~? まぁここまでの量を直接引き出すってのは考えてなかったけど」


 ワープゲートの先は軍港の外側に設定してある。

 その映像は船の外でプレンティが観測し、コウ達のコックピットに共有していた。


「ん? 思ったよりエネルギー多くねぇか?」

「少量ですが、ルナニウムクリスタルを実験的に散布したのが不味かったかもですね……」


 一応は警告を出している。

 付近に近付く船舶は居ないはずだが、目撃者にはド派手な花火とでも思ってもらうしか無い。


 しばらくすれば照射も収まり剣から光も失われた。

 幸いな事に付近の艦船への接触は確認されず、いずれアステロイドベルトに行き着いて消えるだろう。


「さて、問題はここからだな」


 今度はノイント・エンデのリミッター限界までリアクターを稼働させてエネルギーを注ぎ込む。

 燃料カートリッジ装填部にはプレンティが待機し、剣の左右には白と黒のAMが待機している。


 その内の一機へ乗り込むオーラには疑問があった。


「ただエネルギーを送るだけなら、レーヴェや我々の軍艦から引っ張ってきても良いと思うのだが……」

「出力が足りないから時間かかるんだよ」


 スピルリナの軍艦に搭載された動力炉よりも、レーヴェに搭載された反物質反応炉の方が出力が高い。

 だがノイント・エンデに搭載された物は更に改良を加え、高出力かつ高効率化。

そして小型化という三つの点をクリアしている。


 つまりこの場で一番エネルギーを生み出せるのはノイント・エンデだけだ。


「それでも中々満足しなかったコイツは何なんだって話だが……オーラ、コックピットはイジるなよ」

「し、承知している……」


 ノイント・エンデはドレインソードを掴んだ状態でハンガーに固定された。

 その左右でアイオーンに操作された二機がいつでも抑え込めるように待機している。


「腕部の加熱はオメガレーザーユニットへのエネルギー流入が原因……って話だったよな」

「はい。武装類は指示通りに外してあります」

「オーライ。いずれは改良して運用出来るようにしなきゃだが……オーラ、本当にそこに居たままで良いのか?」

「許可を頂けるのであれば是非」

「お前も物好きだねぇ」


 コウは駆動系と武装系へのエネルギーラインを全カットし、腕部へのエネルギー集中を開始する。


「出力上昇」

「充填率10%突破、ドレインソードに変化無し」


 アイオーンは10%刻みでアナウンスを行う。

 40%まで変化が無く50%で発光を始めたが、以前のようなエネルギー漏れを起こしてはいない。


 安全である事を確信したコウはリミッター限界まで出力を上昇させ、一気にエネルギー充填を行う。


「一度主と認めさせれば良いタイプか」


 結局はただ刃に光を取り戻しただけではあるが、どうすればこうなるか判明した事が大きいだろう。






――――――――――――――――――――






 スピルリナでの式典やドレインソードの調査が一段落し、コウ達はようやくネストに戻って来た。

 地上拠点を作った事でスピルリナによる調査団も派遣出来る、彼らが調査した事で様々な事が分かったらしい。


「まず地下にある結晶の正体が分かりました」

「ほう?」


 名前はRNシャード。

 かつてスピルリナ王宮の地下に保管され、金獅子伝説と共に受け継がれてきたそれと同質である事が判明した。


「もっとも研究は進んでいなかった上にレーヴェの呼び出しで消失してしまったようですがね」


 新たに発見された物を伝承通りに行っても何も起きなかったらしい。

 つまりは何か一手間加えなければならないのだが、それが彼らには分からない。


 そして星がコウの物である以上、これより先の調査は許可が必要と言う事で研究計画が一時的に凍結している。


「ん~……まぁそっちは勝手にやらせて良いんじゃないか?」

「了解です。では彼らもこちらで管理しておきます」

「頼んだ」


 いずれはやろうとしていた事だが、勝手にやってくれるのであれば拒む理由は無い。

 久しぶりにナインへ入港したレーヴェから降り、プレンティと共にネストの開拓を再開した。


 だが彼らがいくら植物を育てようにも、それらは上手く行かない。

 以前のように植物が育つどころか芽が出てもすぐに枯れているという状態に陥っていた。


「何でだ……?」

「我々にはテラフォーミングの技術がありません。もしかしたらその辺りが響いているのかもですね……」


 悩んでいても仕方ないと言う事で、コウはMMOへ相談する事にした。


「……一人だけ心当たりがあります」

「マジで?」


 その人物はユーグ。

 ブルームの親玉であり、パーゲル軍のスポンサーとなっていた存在だ。


「それって……ここに呼ぶの不味くねぇか?」


 スピルリナ軍の苦戦したレノプシスが彼の手下である事は有名な話である。

 だがテラフォーミングはユーグが得意としている事だ。


「傭兵登録されているので雇う事は出来ますが……」

「なら雇っちゃうか」


 依頼はすぐに受注され、数日でユーグはネストへやって来た。

 勿論スピルリナのパトロール艦は普段より数が増えている。


「相手はあのブルームの親玉。本当にネストへ招いて良いのですか?」

「向こうも仕事だからな、大丈夫だろう。……まぁ余計な事をすればその瞬間に始末するがな」


 リーネアの宇宙船から降りてくる緑髪の青年、彼こそがユーグその人である。

 護衛は連れていないようだ。


「やぁ。キミが金獅子の異名を持つ傭兵のコウくんだね?」

「あぁ、俺がお前の雇ったコウだ」

「ふふっ、良いねぇ……その獰猛な雰囲気」


 既に数体のミッターナハトがユーグの周りで待機している。

 彼はそれに気が付いてもなお笑みを浮かべていた。


「僕は無駄のない宇宙を目指して日夜努力している。キミも我々の支援者とならないか?」


 ユーグは笑顔で手を伸ばす。

 だがコウは取る事無く、即座に答えを出した。


「断る」

「何故だい?」

「俺は無駄が大好きなんだ」

「そうか。……まぁ良い、今日の所は仕事をするとしよう」


 ユーグはナインから外へ向かう。

 移動にはスピルリナの調査員から買い取った車を使用した。


「この星は酷く乾燥しているようだね」

「そうなのか?」


 彼は元が岩石のみで構成された惑星である事、そして地中の水が溶け切っていない事が原因だと予測した。

 畑に移動到着すると青年はすぐに土を取り判断を下す。


「それと微生物が極めて少ない。その辺りを改善して自然の循環を作ってやれば、もう少し作物は育ちやすくなると思うよ」

「なるほどなぁ……」


 アルカディア時代の農業は基本的にゲームのシステム的な物。

 現実のようにシビアでは無く、ある程度環境を整えてやればすぐに出来上がっていた。


 だがここは現実でありシビアな調整が必要となる。


「あと地下にあるやつ、エネルギーを送り込まないと意味が無いと思うよ」

「エネルギーを……?」

「そう、エネルギー。どんな形でも良いんだけど……まぁ熱が一番簡単かな。土壌にも少し混じってるから、温水散布が一番良いかもね」

「なるほど」


 それからも様々な助言をしてユーグへの依頼は終了した。

 ユーグは宇宙船に乗り込む前に振り返り、もう一度同じ質問を行う。


「さて、最後にもう一度聞いておく。キミは僕たちに強力する気は無いか?」

「答えは変わらん、無いな」

「そうか。残念だな~」


 グリーゼ宙域を離れる所まで見送るが、全ては何事もなく終了した。


「結局何もしてこなかったですね……」

「奴は凄く純粋なだけなのかもしれないな」





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