第30話 ドレインソードの力






 ネメシス宙域。

 そこはブルームの多く住まう地であり、彼らの親玉たるユーグが住まう地でもある。


「ユーグ様、シディオス氏からの情報です。捜し物を見つけた……と」

「そうか。シディちゃんにはありがとうって伝えておいてね」

「承知しました」

「僕もようやく見つけられたよ……」


 光に晒される青年、ユーグは柔らかな笑みを浮かべる。

 いつも以上に機嫌が良さそうな様子の原因は手に持つRNシャードだ。


「それとネストに設置された防衛機構の設計データと、金獅子の拾った剣に関するデータが届いています」


 一方はコルクニスの設計図である。

 最重要部分は保護されているようだが、大部分の情報は示されている。

 そしてもう一方はバイカルで回収したドレインソードの解析結果であった。


「随分と面白い物を拾ってきたみたいだね、彼……」


 記載されている程に大量のエネルギーを吸収して貯蓄、放出する物体はユーグも初めて見る物である。


「それでも……これで僕はもっと増えて、皆の役に立てる!」


 RNシャードを見つめるその目には純粋な狂気が宿っていた。






――――――――――――――――――――






 ネストでの植物育成はユーグの助言により順調に進んだ。

 だがそんな日々はいつまでも続かない。


「ドレインソードを寄越せ、だと……?」

『悪くない取引だと思うんだけどね』


 突如通信で届けられたその言葉。

 コウとしては到底受け入れられる物では無い。

 だが真意を探る必要はある。


「仮にお前がドレインソードを手に入れたとして、それを何に使うんだ?」

『全宇宙のエネルギーを集める為さ!』


 バイカルで状況再現をしたのだが、同じものを作り出す事は叶わなかった。

 レプリカは作れなくも無いが性能の低下はユーグの望む所では無い。

 故にコウが手にしたオリジナルを欲している。


「全宇宙を、ねぇ……」

『全ての人が平等に暮らせる』

「宇宙は不平等だからこそ、可能性に満ちています。人の手でそんな事をすれば可能性は消え去ると思いますが?」

『残念だけど、僕は人じゃない』


 ユーグは突如として自身の腕を切り落とした。

 中から緑の液体が溢れ出し、再び腕を形成する。


「言葉遊びしてんじゃねぇよ……」

『まぁ良いよ。交渉が無理なら、方法は一つだよね?』


 こうしてユーグとの通信は終わりを迎えた。

 だがすぐにスピルリナからの通信が入る。

 内容はブルームの大軍勢がグリーゼ宙域へと近付いているという物だ。


「狙いは絶対今のやつだよなぁ……」


 現在近付いている量はスピルリナでは対処しきれない程である。

 到着までにはまだ数日の猶予はあるが、それは戦力を整えるには心許ない時間だ。


『コウ殿はどう動く?』

「まぁ不本意ながら俺が原因みたいだし、自分で対処するが……ここまでの数を真正面からってのは面倒だなぁ」


 不可能では無い、だが面倒というのが素直な評価である。

 頭を悩ませるコウにレナは助言を行う。


「ユーグの目的があくまでもドレインソードなら、ネストとコルクニスを活用すれば良いんじゃない?」

「「……なるほど?」」


 コウとアイオーンには、必要な物を全てレーヴェに収容すべしという思考がある。

 逆転の発想とも言えるその作戦は全くの盲点であった。


「誘い込めるのであればかなり楽に叩けるかもしれませんね」

「だな。そうなると奴を一回呼んだのは失敗だったかもだが……まぁ致し方無い」

「何とかなりそう?」

「おう、お陰様でな」


 コウとアイオーンは笑顔でサムズアップし、レナも釣られて笑みを浮かべた。






――――――――――――――――――――






 作戦は決まった。

 敵の目的であるドレインソードはネスト地上拠点であるナインに置き、衛星軌道上でコルクニスやレーヴェが防衛を行う。

 ユーグも始末出来れば良いのだが、そこはMMOからの要請により不可能となっている。


 周りの被害を増やさない為にもドレインソードの行方はあえてネストにあるとの噂を流し、遂に開戦の時が近づいてきた。


「……何か数多くねぇか?」

「時間があるのはこちらだけではありません。あちらも食料を増やし、個体数を増やしたのかもしれませんね」


 アイオーンの推察は正しい。

 唯一の誤算があるとすれば増殖した食料がユーグ自身であり、ネストから盗んだRNシャードで増殖したその身体を食べさせ数を増やしていたという事実位だろう。


「味方機展開完了。コルクニスから出撃した機体は自動防衛モードに移行、補給準備も完了しています」


 これまでの戦闘では大抵三体のAMが投入されていたが、今回は違う。

 コウの乗るノイント・エンデ以外は全てコルクニスからの自動稼働機であった。


「敵陣先頭のレノプシスが味方機の射程圏内に入りました」

「オーライ、んじゃ派手に行きますかァ……!!」


 開戦の狼煙はノイント・エンデのオメガレーザーだ。

 真正面から受けた十数匹が巻き込まれ爆散するが、後方の個体は二手に分かれて囲みこむ動きをしている。


「流石に学習して来てるな……」

「ブルームの動きは概ねネスト狙いという事は、噂の方も上手く行ったようですね」


 腰部から八本の刃を展開し、アイオーンの操作で縦横無尽に宇宙を駆け巡る。

一方のコウは翼から展開した双剣と未来予知能力、そして機体性能をフルに使い彗 星のように敵を斬り裂いて回った。


 それでも取り零している敵は多く、ユーグによる侵攻は着実に進んでいる。


「……コウ、非常事態です! コルクニスの防衛が突破されました!!」

「何だとォ!?」


 コルクニスは赤道上空の衛星軌道に三機投入されているが、両極点には設置されていない。

 当初の想定ではここまでの大群を単独で相手取ると考えていなかったからだ。


 だが状況は違う。


「ッチ、思ったより敵が多かったか……」

「レーヴェで戻りますか?」

「いや俺が直接行った方が早い。隠し玉もあるしな」

「了解しました。戦線の維持はこちらで行いましょう」


 ヴァイス・ブリッツとシュトロームが発艦し対処を開始する。

 驚異的な加速を見せたノイント・エンデは速度を維持したままネストの南極圏へ降下。


 すぐさま敵を斬り刻むと弾道軌道で飛び上がり次の目標へと向かった。


「先に降下していたアレスと第二陣のアレスが合流しネストに近づいています、恐らく地上に配備したアルトでは対処不可能かと」

「マジかよ……!!」


 コウはフットペダルを踏み込み更に加速をかける。

 ジャンクヤードを備えたドーム付きの建物はすぐに見えた。


 アルトはアイオーンの予想通り既に全滅しており、シャッターにアレスが取り付いている。


「やらせるかよォ!!」


 直上から双剣を振り下ろし首を取る。

 着地の衝撃を緩和させる為に低くした姿勢のまま加速してアレスに斬りかかった。


 半数の個体には槍や盾の前足で防御されたが、半数の個体には致命傷を与えている。

 動きが鈍った個体にはアイオーンが操る刃で止めを刺した。


「何とか間に合ったが……」

「状況はかなり厳しいですね」


 衛星軌道上ではレノプシスが活躍する一方、地上では多くのアレスが跋扈している。

 決して勝てない状況では無いが対処に困っている状態だ。


「札を一つ切るしか無いか……」


 双剣を構える機体の中でコウは機体に司令を送る。

 すると翼にエネルギーが送られ、光を発し始めた。


「お前らが学習して進化するように、俺も……この機体も! 進化してるんだぜ!!」

「ヘルシャフト起動」


 翼が光ると同時にアレスの一体が潰れる。

 警戒している間に次々と地面の染みになっていった。


「RNシャードにエネルギーをかければ良い。こういう事だったんだろう? ユーグさんよぉ!!」


 ヘルシャフトはノイント・エンデの周辺に重力制御フィールドを作り出す技。

 実用化には度重なる無茶な稼働データとRNシャードが必要であったが、根本的な技術面はヴァイス・ブリッツとシュトロームのモノがある。


「そらそらそらァ! 道を開けなきゃ死んじまうぜェ!!」

「まるで悪役ですね……」


 ブルームの血潮を受けて突き進んでいるのだから、言動と表情だけ見れば悪役に違いない。


「地上に残るアレスは次の個体が最後です」

「ほぉ、ソイツの居場所は……」


 コウの背中を狙い、アレスは飛びかかる。

 だが彼には未来が見えている。


「……そこだッ!!」


 素早く屈んで回し蹴りの要領で反転し、真正面からオメガレーザーの照射をお見舞いする。

 相手は肉片一つ残さず燃え尽きた。


「ふぃ~……」

「お疲れ様です」


 だがこれでも防衛戦を突破して来た相手を対処したに過ぎない。

 コルクニスからの機体が極圏を防衛した事で敵戦力がネスト直上に集中しており、突破されるまでは秒読みという状態になっていた。


「なぁ、もしかしてだけどさ……」

「ドレインソードが使えますね」


 敵は分断せずに真正面で固まっている。

 そしてその直線上にスピルリナ軍の艦隊は存在せず、レーヴェさえ動かせば良い状態だ。


「よっしゃ! んじゃいっちょやりますか!!」

「はい!!」


 ノイント・エンデはナインに入りドレインソードを回収し、急いで外に出ると即座に両腕で掴み真上へと向けた。


「武装系へのエネルギーカット、駆動系にも概ね問題無し……」

「味方機の後退完了しました」

「オーライ! んじゃ仕上げに……」


 音声通信のチャンネルをオープンに設定。

 同時にアイオーンがとあるデータを送った。


「付近の艦船に告げる、警告した範囲に入るなよ!!」


 アイオーンの送り付けたデータはドレインソードの影響予想範囲である。

 ネストへの降下を始めたアレスやレノプシスは全て収まっていた。


「3、2……1…………発射ッ!!」


 ドレインソードのトリガーが引かれる。

 直後に凄まじい量のエネルギーが影響予想範囲を通過し、ブルームは全て駆逐された。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る