第27話 帰り道






 月面から離脱したレーヴェは数日かけてヘルメス宙域にまで戻ってきた。


「コウ、地球とスピルリナの食べ物と文化の近い理由が分かりました」

「ん? あぁ、そんなのも調べてたな」

「忘れてたんですか……」

「いやぁすまんすまん」


 コウとしてはもう少し早くに欲しい情報であったが、実際に現地へ赴いたからこそ分かる事もある。


「地球の存在はスピルリナを初めとした各惑星でも確認しています。その事は以前にも話しましたよね?」

「あぁ」

「その理由は、地球人が元々グリーゼ宙域に住んでいた事にあるようです」


 現在地球で暮らす彼らはグリーゼ宙域の一勢力で、スピルリナが台頭する以前に存在した。

 元々は争いを嫌い全ての勢力から距離を置いたのだが、ある時から完全に連絡が途切れたらしい。


 重要度が低く誰にも気が付かれず人々の記憶からも消えたのだが、スピルリナがグリーゼ宙域を支配し初めてからしばらくした時。

 一人のアマチュア惑星探査家が地球を再発見した。

 接触を試みるも言語と技術が大きく変化していたと言う。


 一応は自動言語翻訳が可能なようにしたが、現在はリーネアが他国の接触を極力禁止しているようだ。


「もっとも、スピルリナに住む人々の源流は分かっていないようですが……宇宙の中心から出現したという伝説が存在するようですね」

「ほ~ん……」

「……食物やその料理方法に繋がる部分なので、もう少し興味を持ってもらいたいモノですね」

「そうは言われてもな」


 現在はレノプシスとアレス、そして宇宙海賊との戦闘中である。

 コウが会話に集中出来ないのも致し方無いだろう。


「にしても、今日はやたらしつこいな」


 ブルームは本来戦闘を起こすのが目的なはずだ。

 目に付いた敵から叩く事が多く、大体の場合はAMが餌食となっている。


 だが今回はレーヴェが集中的に狙われていた。


「奴らの動き、何かおかしいな……」

「他の機体も出しますか?」

「いや……シュトロームだけで何とかしよう」


 地球へ行った時の経験から、コウには戦力をなるべく温存しておきたいという考えがあった。






――――――――――――――――――――






 コウは無事に戦闘を切り抜け、エレボス宙域最外端のゲートに到着した。

 周辺はリーネアからの依頼を受けた傭兵が宇宙海賊やブルームを狩っている事から、多少の安全が確保されている。


 更には補給拠点までもが存在しており、その先で激しい戦闘が待ち受けている事を示していた。


「寄りますか?」

「一応寄っとくか……」


 行きは余裕だろうと高をくくって寄らなかったコウだが、帰りはかなり慎重な動きをしている。

 念の為にリーネアの拠点で補給をしてからエレボス宙域を突破する事にした。


 他の戦闘艦と比較すれば巨体のレーヴェだが、輸送船と比べれば同レベルであり港に入る事は問題無い。


「マスター、私も付いて行って良い?」

「まぁ別に構わんが……ここはエレボス宙域だし、あんま離れるなよ?」

「分かってる」


 レーヴェを降りた二人は売店へ向かい、鋼材を注文。

 その後に食料品を売っている市場へ向かった。


「さてと。何を買うかはお前の判断に任せる、予算は特に考えなくて良い」

「そうなの?」

「あぁ。それと自分用に欲しい物があれば遠慮せずに買っちまえよ」

「分かった」


 レナはレーヴェに雇われたクルーという扱いになっており、働けば働いた分だけ給料が出ている。

 その辺りはアイオーンの管轄だが、今回はコウの奢りという訳である。


「お……」


 コウは珍しい品物に目を引かれた。

 だが値段は悩む程に高く、必要性は低い。


 そうした思考の間に事態は進んだ。


「やっぱ止めよう。あーあとアオがサイボーグ用のパーツを欲しがってたから、ついでに買おうと思うんだが……ん? レナ?」


 レナはその僅かな隙きを突かれて裏路地に連れ込まれた。

 相手の手を振りほどこうにも力が強すぎて解けないで居る。


「離して……ッ!」

「思い出してください、アナタが何者であるかを」


 肩を掴まれ壁に押し付けられる。

 レナを真正面から見つめるのは白髪の美女だ。


「そんな事……言われても…………」

「全てはユーグ様の為です」

「ユーグ、様……」


 白髪の女は紙をレナの懐に忍ばせ、尚も壁に押し付ける。


「へいへーいそこのお姉さん、ウチのクルーに何か用があるのか? 出来れば俺を通して欲しいモンだねぇ」

「ッチ、金獅子か……」


 コウはハンドガンを構える。

 生身での戦闘も出来るが、AMでの戦闘程に圧倒出来る自信は無い。

 すぐさまアイオーンに状況を共有し警備隊を呼んだ。


「流石に増援を呼ばれては面倒ですね。また会いましょう?」






――――――――――――――――――――






 一先ずはレナをレーヴェに送り届け、コウは一人で警備隊の詰め所へ向かい事情説明した。

 顔写真は共有済みである。


「あぁ、ブルームのシディですね」

「ブルームって……あのブルームか!?」


 ブルームは基本的に獣のような見た目をしてる事が多い。

 だが中には人に近い見た目の個体も存在しており、通称シディと呼ばれているシディオスもその一体であった。


「見た目が白っぽいのが特徴なので見つけやすい……はずなのですが、頭が良く回るらしくいつも検問を突破されてましてね。我々も手を焼いているのですよ」


 コウは可能な限りの情報を交換してレーヴェに帰還した。


「レナの様子はどうだ?」

「大分落ち着いたようです」


 突然見知らぬ存在に手を引かれて薄暗い場所に連れ込まれたのだから、ショックを受けるのも無理は無い。


 だが慌てふためくというよりは意気消沈という状況に近いらしい。

 最初はアイオーンが話しかけても返事が出来なかった程だと言う。


「よっ」

「コウさん……」


 レナの顔は始めて会った時より酷く落ち込んでいる。


「アイツに絡まれる理由、何か思い出せたか?」

「……ごめんなさい」

「そうか。まぁ~あんま気にすんなよ、宇宙に生きてればこんな事もあるからよ」

「ん……ありがとう」

「おう」


 今は無理に聞き出さない方が良いと判断したコウはレナの部屋から退出した。

 警備隊には“記憶が混濁してしまい何を言われていたのか覚えていない”と伝え、即座に出港した。


「しばらくは警戒しといた方が良いかもな」

「先の戦闘でレーヴェが執拗に狙われたのも、実際はレナが狙われていたのかもしれませんね……」

「そうかもしれんな。ドレインソードの完成を急いだ方が良さそうだ……」





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