第26話 月のお土産
程々に景色を楽しんだ二人は車に戻った。
コウは近くに何か無いかとカーナビをイジる。
「さてと、次はどこに行くかねぇ……」
「マスター、ここは何?」
「ん? 牧場か……」
レナが見つけたのはとある牧場。
そこではジェラートが販売されているらしく、カーナビの観光案内でも好評となっている。
二人はそこを目指し移動した。
「到着だ」
「ん」
気になる物は沢山あるが、レナはコウの後を追って売店へ入る。
「いらっしゃいませ~」
「味は何にする?」
「私はいちごミルク」
「オッケー。じゃあ俺は……バニラにするか」
店員はすぐに品物を用意し、コウは料金を渡す。
外は緩やかな陽気な事から彼らは外でジェラートを食べる事にした。
「冷たい、甘い……」
「ここは当たりだな」
「冷たい……でも美味しい…………」
レナは夢中でジェラートを食べている。
表面上は分かりにくいが、今までになくテンションが上がっているらしい。
気が付けば手元にあったジェラートは綺麗に消え去った。
「むぅ……」
「ジェラートが気に入ったらしいな。なら向こうも見に行くか」
「向こう?」
コウはバニラ味のジェラートを食べながら歩く。
その先にあるのは牧場が管理する牛舎だ。
「この動物達は?」
「ジェラートに欠かせない材料、牛乳を作ってくれている牛だ」
「ふーん……」
反応は冷淡な物だが、瞳は釘付けとなっている。
レナの興味が牛へ向いているのは明らかだろう。
「マスターは動物を飼わないの?」
「まぁいずれは欲しいが、次の機会で良いだろ」
「また来れるの?」
コウの言葉を聞いたレナは目を輝かせる。
どうやらジェラートが気に入ったらしい。
「必要があればな」
「……分かった、絶対に必要を見つけてみせる」
山道は信号が少なく、単純な距離であれば長く出来る。
だが同様に目的地同士の距離と移動に必要な時間は長くなる物だ。
辺りはすっかり夕暮れ時となり、彼らが地球観光で最後に訪れる場所に到着した。
「おぉ……」
「ここには物が多い。余所見ばっかしてると置いてくぞ~」
そこはコウが唯一目的地としていた場所、ホームセンターである。
地上での動きは完全に任されており必要も無かったが、一応は必要だろうという事で立ち寄ったのである。
「む、マスター待って」
レナはトコトコとコウの後ろを付いて歩く。
視線は様々な方向へへ向かいつつも、コウの背中が必ず見える範囲内に居る。
「レーヴェの中みたいだね」
「まぁ確かに……参考にした部分はあるかもな」
広大な敷地面積と多くの物が並んでいる。
特に木材置き場の品々が鋼材に入れ替えればレーヴェにそっくりだろう。
「っと、あったあった」
「それは?」
「カゴとカートだ。今回は買い物の量がちょっと多いからな」
「ボクが押して良い?」
「良いぞ。ただし周りには気を付けてくれよ」
「合点」
レナの足に合わせつつ、コウは園芸用品売場へ向かう。
まず手に取ったのは園芸用土である。
「うーん、違いが分からん……」
アイオーンに相談出来れば良いのだが、地球上でレーヴェと通信を取る事は原則不可能となっている。
何でも過去に通信が傍受されて基地が見つかりそうになった事があるらしい。
「全部買えば良いんじゃないの?」
「それもそうだな!!」
コウは目に付いた土を全て購入。
分析や複製はアイオーンに任せる事にした。
「柵に支柱にネット……まぁこの辺は買いだしたら切りが無いし、種買って帰るか」
――――――――――――――――――――
荷物は全てリーネアの宇宙船で打ち上げられ、人員と共にレーヴェへ運び込まれた。
アイオーンはレナから地上での活動報告を受けている。
「羨ましい……」
「ならアオさんも来れば良かったのに」
「肉体が無いんですよ。悪かったですね、プログラム上の存在で……」
常時通信を行う訳にも行かず、ノイント・エンデ等のAMを持ち出す事も出来ない。
プレンティを介して行動を共にする方法もあるが、明らかに目立ちすぎるが故に出来ない。
そしてアイオーンが羨んでいるのは人として同行する事である。
「で、前頼んだ調査の結果は?」
「そうでしたね……」
コウは一目見た段階で自分の知る地球と大きく差がある事に気が付いていた。
そこで覚えている限りの出来事をアイオーンに伝え、この地球の歴史と照らし合しでの調査をせていたのだ。
「結論から言うなら、全く異なった歴史を歩んでいる……という所です」
「まぁ見るからに違うし……俺の居た世界とは違う歴史を歩んだんだろうなとは思ってたが、ここまで違うのか」
まずこの世界では世界大戦が起きていない。
代わりに様々な国同士で小競り合いが長く続き、技術が停滞と進化を繰り返しているらしい。
次に何か大きな騒動があれば、最初で最後の世界大戦が勃発する可能性が見ている状態だ。
更にはVR技術の代わりにAR技術が発展しているらしく、未だ技術試験段階ながらもかなりの物が出来上がっている。
コウとしては非常に大きな情報である
「この世界だとVRゲームの代わりにARゲームが流行ってるのか……」
「の、ようですね」
アトラクションの演出強化に使用するタイプや、身体をロープで釣って半ばVRのように体感させる等種類は様々である。
だが更にコウの目を引く情報がそこには書かれていた。
「……え、この世界の人類って月面旅行をした事が無いの?」
月面旅行はコウの暮らしていた地球では一般的になりつつあった事である。
だがこの世界の月は、それ自体が恒星に近い性質を持っている事により不可能となっているらしい。
「なるほどね。通りで夕方でも明るかった訳だ」
「月光が太陽光の反射である事は分かっているものの、照り返しが強すぎて近づけないようです」
更には彗星の尾のように広がるエネルギーが影となった部分に高速で吹付けられており、無人探査機を利用しようにも利用出来ないらしい。
「ですがレーヴェなら行けます」
「マジ? なら折角だし月面旅行して帰ろうぜ」
「「サンセー!!」」
レーヴェは早速月の裏側へと移動した。
事前情報通りに広がるエネルギーが影の中心点に叩きつけられており、レーヴェは真正面からその中へ侵入。
バイカル程では無いが、船体にはそれなりの負担がかかっている。
「レナも来るか?」
「良いの?」
「戦いに行く訳じゃないからな」
レナは静かに頷き同行の意を示す。
一応は宇宙服を着用し、コウと共にノイント・エンデへ乗り込んで出撃した。
お供にはプレンティが付き添い、月面へと降下する。
「修理は完璧みたいだな」
「大量のデータが手に入ったので、システム面から多少の燃費改善もしてあります」
「オーケー。戻ったらハード面からも改善するかねぇ」
コウは吹き付けるエネルギーもついでに観測した。
すると表示されたその数値は生半可な宇宙船や防護服では耐えられないレベルである事が分かった。
一方お供のプレンティは平気らしく、ノイント・エンデの足元をウロチョロしている。
「マスターマスター!」
「ん? どしたー」
「ヘンナイシガアリマス!!」
「コッチニモ!!」
「アッチニモ?」
「ソッチニモ!」
プレンティからコウの元へ同様の報告が大量に上げられた。
どうやら対エネルギー系のセンサーが時折ゼロになっては倍に跳ね上がる石があるらしく、彼らはそれが気になるようだ。
「どうしますか?」
「サンプルを持って帰ろう」
「了解。プレンティ各機、大量過ぎない程度にサンプルを回収しなさい」
「「「リョーカイ!!」」」
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