第25話 地球観光
バイカルでの戦闘から数週間、コウは無事に太陽系へと辿り着いた。
入手した剣はドレインソードと名付けれ、引き続き調査が行われている。
同時に拾ったレナは料理人服が馴染んできた。
「母なる大地、地球よ! 私は帰って来た!!」
「周辺に船影無し、戦闘の発生する可能性は極めて低いかと」
「無視かよぉ~。釣れないねぇ~……」
道中では目立った戦闘も無く、太陽系ではエレボス宙域での喧騒が嘘のように静かな時間が流れている。
だが現在のレーヴェで主戦力となっているノイント・エンデ、ヴァイス・ブリッツ、シュトロームの三機はバイカルでの戦闘で少なくないダメージを受けていた。
そしてそれは戦闘続きであったパイロット達人間にも言える事である。
『という事で、コウは少し休んでて下さい』
「どうして私まで……」
隕石に混じって降下し、コウとレナはリーネアの拠点となっている街に到着した。
その場所は日本の某県郊外であり、所謂片田舎という所である。
ちなみにだが、コウだけでなくレナもその場に居るのはアイオーンの計らいだ。
『慣れない環境で疲れた事でしょう。レナも地球観光で外の空気を吸ってきてはいかがですか?』
「なるほど、そういう事ね」
「アオさん……ありがとうございます」
表面上はツンケンしているアイオーンも、何だかんだ他人を気遣う優しさがある。
画面の横からはプレンティが乱入してきた。
『アトハマカセロ』
『ヤブイハオミヤゲヲマッテマス!』
『ナンバー821は後で格納庫へ来るように』
『『アッ……』』
『では私はこれで』
「おっ、おう……」
レーヴェとの通信は終了。
コウとレナは服を着替え、施設から外へ出た。
「こんな所にこんな施設って、大丈夫なのかね……」
「政府と繋がりがあるから大丈夫だってアオさんが言ってた。……あと何でボクは着替えさせられたの?」
「まぁ目立つからな」
現在のレナが持っている服はレーヴェの料理服だけなのだが、それはアルカディアで入手した物であり酷くサイバーチックな見た目をしている。
コウ共々そのまま歩かせる訳には行かない、と言う事で施設の人に貸して貰ったのだ。
「マスターの方が目立つと思ってたけど……随分と上手く変装したのね」
「まぁ顔だけは人間のままだからな」
コウも普段のパイロットスーツからラフな服装に着替えている。
髪色も黒い事から、余程の事が無ければ目立つ事は無いだろう。
「これが、デートと言うやつ……」
「いやチゲェよ」
コウは施設で車を借りて移動を始める。
県道に出ても人通りは少なく、信号も少ない事から移動は比較的スムーズに進んだ。
「マスターは随分慣れてるんだね、この星」
「まぁな。伊達に二十数年住んでないって所だが……」
「どうかしたの?」
「……いや、何でも無い」
コウは言い切る事も無く運転を続ける。
行き先の無い旅ではあるが、少し遠くに行く事を決めたコウは県道から高速道路へ乗った。
「車って結構うるさいんだね」
「そこはまぁ仕方ない」
「でも結構悪くない」
山の中に作られた道路にはいくつかのトンネルが設置されており、そこを超えればサービスエリアの看板が何度か見えた。
時間は昼前、レナのお腹が不意に鳴る。
「うぅ……」
「そう言えば朝飯まだ食ってなかったな。次のサービスエリアで何か食べていくか」
彼らはリーネアに日本円といくつかの資源を換金しており、それなりの金額の現金を持っている。
それは決して大きな買い物が出来る程では無いが、大人二人が一ヶ月不自由無く暮らせる程度だ。
本線からサービスエリアへの分岐に入ったコウは駐車場で車を止める
「ここで昼飯を買ってくぞ~」
「ん、分かった」
今回彼らの立ち寄ったサービスエリアは比較的規模の小さな所であり、小さな売店とお土産エリアしか存在しない。
コウは無難な梅のおにぎりとお茶を選んだ一方、レナは卵サンドかエビマヨの巻きずしかで迷っているようだ。
「むぅ……」
「両方買えば良いんじゃないか? 食いきれないなら後で食べるか……まぁ俺が食べても良いし」
「良いの?」
「おう」
「ありがとう」
レナは水と卵サンドとエビマヨを手に取り、レジへ向かった。
会計を待っている間にもレナは辺りをキョロキョロと見ているのだが、レジ前の揚げ物を特に気にしている。
「――以上でよろしいでしょうか?」
「あ~、あとそこの唐揚げもお願いします。レナは何かいるか?」
「……その、アメリカンドッグっていうのを食べてみたい」
「オーケー。じゃあ店員さん、アメリカンドッグもお願いします」
「お買い上げありがとうございます」
二人は店側の思惑にまんまとハマった。
だがこうして思惑に乗って商品を手にしているのだから、事は悪い事ばかりでは無いだろう。
「食べてから行くか」
「うん」
コウとレナは買い物袋を手にテラス席へ移動した。
早速アメリカンドッグを取り出したレナは黙々とかじりつき、コウはその様子をホッコリしながら眺めている。
「むぅ……そんなに見られてたら食べづらい」
「おっと悪い悪い、唐揚げ一個やるから許してくれ」
「ありがとうマスター」
コウは唐揚げの入った袋を差し出す。
レナはアメリカンドッグの失われた串先で貫き、口に運んだ。
「美味いか?」
「ん、唐揚げも悪くない」
「そりゃ良かった」
テラスでの食事を終えた二人は諸々の用事を済ませて車に乗り込んだ。
「そう言えばレナ、どっか行きたい所はあるか?」
「特に無い。……けど、自然の感じられる所に行きたい」
「確かに、ずっと岩と鉄に囲まれてたモンな」
「ん」
コウはレナの願いを叶えるべく、カーナビに手を伸ばした。
「何をしてるの?」
「さっき山の方に展望台っぽい所が見えたんだ。そこに行こうかなーと思ったんだが……っと、あったあった」
捜し物はそう時間を置かず見つかる。
コウは展望台を目的地に設定すると再び車を走らせた。
サービスエリアからすぐ近くの料金所で高速道路を降り、曲がりくねった峠道を登る。
だが結局は途中の看板と一本道だった為、ナビは不要だった。
「着いたぞ」
「おぉ……」
レナは一目散に車から降りて柵の近くへ向かう。
そこから見える町並みは少し白んでいるが、多くの人々が暮らしていると実感出来る物だ。
「この光景、懐かしい……気がする」
「そうだな……」
だが二人が感じているのは、共に“気がする”という域を出ない。
そしてコウにはずっと違和感があった。
「やっぱここは俺の住んでた地球じゃないらしいな……」
「そうなの?」
「あぁ」
彼の知る地球と彼が現在降り立っている地球、その二つには地形と気候の微妙な差がある。
そして何よりも地形と地名が結び付かないのだ。
「まぁ同じ地球に行けたとしてどうする、って話だがな」
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