第24話 バイカルの拾い物
「さて、これで終わってくれれば良いんだが……」
「そうも行かないようですね」
再び結晶が戦艦に集まり始めた。
だが今度は撃破した敵機の破片諸共集まり、内部で何かを作り出しているらしい。
中心部で激しい発光現象が起こっているのだ。
「何だアレ……」
光は徐々に収束し、瓦礫と結晶の塊から飛び出した。
その先に捉えるのはコウの乗るノイント・エンデである。
「コウ!!」
「わーってるよ」
一先ずはレーヴェを巻き込まないように距離を取り様子を見る。
段々と収まってきた光の中に見えたのは一本の剣だ。
「ほぉ~、丁度良い。お前はお土産にしてやろうじゃねぇか」
「触れない方が良いのでは?」
「いかにも“持ってくれ”って形してんだから、少なくとも持つ位は出来るだろうよ。まぁその先でどうなるか次第って所だが……」
ノイント・エンデが動けば剣もその後を追うが、動きはそれほど早く無い。
コウは撃破では無く捕獲に向けて頭を動かす。
「ヴァイス・ブリッツを出せるか?」
「勿論です」
「んじゃちょっと回避を頼むぜ!!」
「了解しました」
コックピットを操作し、コウはノイント・エンデからヴァイス・ブリッツに乗り換えた。
白い機体はレーヴェからワープゲートを通過して飛び出し、暴れまわる剣の後ろに付く。
「捕まえ……たッ!」
鋭い機動が特徴の機体はそう時間を置かずして剣を掴んだ。
だが剣の真価はここから発揮される。
「おっ、マジかよ! コイツ機体のエネルギーを吸い取いやがるのか!!」
「シュトロームは出撃可能です」
「サンキュー!」
燃料満タンで出撃したにも関わらず、エネルギー残量は一瞬で30%を下回った。
ヴァイス・ブリッツは剣を離して補給に向かい、コウの駆るシュトロームが入れ替わるように出撃する。
「このォ……じっとしやがれッ!!」
シュトロームが捕まえた剣。
それはエネルギーを吸い取るだけでなく、刃の付け根からエネルギーを放出する事も出来るらしい。
剣は元々の浮遊能力と逆噴射で暴れるが、シュトロームがほぼ完璧にそれを抑え込んでいる。
「コイツはコイツは! シュトロームを選んで良かったぜ!!」
シュトロームは瞬発力で劣るが、長期的に大きな力をかける事には長けていた。
それでも剣の暴れっぷりは凄まじい物である。
「シュトローム、エネルギー残り40%」
「クッソ……流石に消耗が早いなッ!」
「念の為にノイント・エンデの補給をしておきました」
「サンキュー! んじゃシュトロームの維持は頼んだぜ!!」
「了解です!」
コウは素早くコックピットを操作してノイント・エンデに乗り換えた。
シュトロームの直上に移動した機体はバイカルの地表へと加速を始め、剣を奪い取るようにして掴んだ。
「空中だから面倒なんだよッ!!」
剣を強引に抑え込み、結晶で作られた地面へ突き刺す。
なおも剣は暴れるが、コウは機体の腕部が軋むのも構わず抑え込ませた。
「っつーかよぉ、そんなにエネルギーが欲しいってんなら……くれてやるッ!!」
武装系に回すエネルギーを全カットし、腕部とスラスターウィングに大半のエネルギーを割り当てた。
両者のエネルギーがぶつかり合う足元は大きく抉れ、機体の各所はアラートを発している。
だがそれでも剣を満足させるには至っていない。
「援護します!!」
「助かるッ!」
シュトロームとヴァイス・ブリッツが抑え込みに回った。
これによってノイント・エンデは残りのリソースを全て剣へ回す事が可能となる。
「これで……止まりやがれッ!!」
腕部の内部フレームが赤熱化する程のエネルギーを送り込み、ようやく剣は動きを止めた。
刃は青白い輝きを宿している。
「残りカートリッジは二本以下、本当にギリギリでしたね」
「あぁ。正直ここまで使うとは思わなかったぜ……」
青白い刃を持つ剣を手に入れたノイント・エンデは速やかにレーヴェへと収容され、レーヴェはバイカルからの速やかな撤退を決め込んだ。
剣の監視と調査はアイオーンとプレンティで行う事になり、パイロットであるコウはようやく一息付く事が出来る。
「ふぅ~、久々に疲れたな……」
「オツカレサマデース」
「助かる」
出迎えのプレンティがタオルを渡す。
コウの身体は汗をかかない為に必要は無いが、精神的な面で効果があるのだ。
彼は同時に受け取った飲み物をラッパ飲みしてクールダウンした。
「あぁ~そうだアオ、レナはどうした?」
「食堂に居るはずですよ」
「オーケー、んじゃ行くか」
激戦に巻き込まれたのだからメンタルケアが必要な可能性も考慮に入れつつ、コウは食堂へ移動した。
だがそこに広がっているのは見覚えの無い料理の数々である。
「何じゃこりゃ……」
「あ、コウさん。キッチンと食材お借りしました」
どうやらレナが料理を作ったらしく、黒髪は後頭部でまとめられている。
食堂に配備されたプレンティは配膳を手伝い、レナ自身とコウの分の食事が用意された。
「スピルリナから食材は受け取っていましたが、我々では調理が出来ないので彼女に任せてみました」
「任されました」
「おぉ~」
コウは静かにサムズアップするレナを称賛して拍手を送る。
時間を置いた事もあり、レナの精神面はかなり落ち着いているようだ。
「……冷める前に食べちゃいましょう」
「だな」
分かりやすい称賛で少し照れたらしく、レナは少し顔を赤らめている。
コウが手を洗いに離れる間に髪は解かれ、元の髪型に戻っていた。
「そんじゃ、頂きますッ!」
「……いただきます」
レナの料理は素材の食感も余すこと無く活用され、程よい歯ごたえに仕上がっている。
味も最高と言って良いレベルでありコウを満足させた。
「でも、まだ足りない……」
「そうなのか?」
茶碗を片手に質問を飛ばすコウに対し、レナは静かに答える。
「料理をしてて思い出した。私は“おいしいもの”を求めて旅をしていた……気がする」
「なるほど。それが辛うじて話せる自分の事か」
「うん……」
コウはレナを安全圏までは送ると言ったが、その後の事は何も話していない。
つまり彼女には広い宇宙で一人旅をしなければならないという前提があり、その事が酷く不安だった。
「お前、行く宛が無いならレーヴェでコックにならないか?」
「良いの?」
「あぁ、俺達も美味いモンを探してるんだ。調理出来る人間も居るってんなら助かるが……どうする?」
「行く!!」
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