第21話 星の開拓と迎撃
彼らは一先ずはいくつかの種類の作物を育てる前提で話を進める事に決めた。
具体的にどのような食物を育てるかは決めていないが、農地に出来そうな場所の目星を付けて行く。
そこからネストの本拠点たるナインまで道路を繋げ、収穫した荷物を一箇所に纏められるようする事も忘れずに行っている。
防衛や雑務用にどの機体をどの程度割り振るのかまでシミュレートし、二人は行動を開始した。
「シミュレーション完了。まずは整地から開始しましょう」
「っし、んじゃあ行きますか~」
「「「オー!!」」」
いつの間にか集まっていたプレンティ達はコウと共に手を挙げて、意気込みを表現した。
だが惑星全土を効率良く活用するにはとある山が障害となる。
そのナイン近郊にある山もその一つだった。
「この辺りか?」
「はい、その辺りです」
ナイン周辺の地形はなだらかな平野が続いている。
だがその一方向を巨大な山が壁として塞いでおり、高原地域は別の場所に確保している事から破壊が決定された。
コウの乗り込むノイント・エンデは巨大な山脈に向き直り、両足を広げて両腕を前に突き出す。
「一発目は! ド派手に行くぜ!!」
多くのプレンティに見守られる中、腕部に搭載された合計四門の銃口から光が溢れ出し巨大な山を貫いた。
「「「オーーー!!!」」」
光の正体は特殊な粒子に荷電を与え加速させた物。
ノイント・エンデは一般的に『超強力な水鉄砲』と言われる事もある荷電粒子砲を腕部に搭載しているのだ。
凄まじい反動は背中から伸びる翼に搭載されたヒッグス・スラスターが制御しており、反動で後ろへ下がるような兆候は一切無い。
大部隊をも殲滅する能力を持ったそれを、彼らは惑星開拓という目的の手段にしているのだ。
「マスター、ガンバレー!」
「イケイケー!!」
「おう! 任せろ!!」
「山の組成を解析すれば、反物質粒子を使用する事も出来ますが……」
「威力が高すぎて地殻まで吹っ飛ぶだろうがよぉ!? この効率厨めぇ!!!」
「むぅ……私ならやれるのに」
確かに効率だけを考えれば全てをアイオーンに任せるのが良い。
それでも惑星改造の第一歩は自身の手でやりたい、と言うのがコウの意思である。
数十秒ほど緩やかに荷電粒子を照射された山は姿を消し、最後には赤熱化した広大な更地だけが残された。
「っし……お仕事完了ッ!」
ノイント・エンデが赤熱化した腕部を下ろすと同時に、プレンティは金属質な拍手を送る。
そこから先は別の機体と別の人物の仕事だ。
「後は頼んだぜ、アオ」
「了解。プレンティの増援とアルトの投入を開始します」
上空で待機していたレーヴェは無数のワープゲートを開き、機体を降下する。
一方は艦内でも活躍する見慣れた機体でありプレンティ。
コウが所有する機体の中でも特に数が多く、簡易的なAIも搭載している事からある程度の仕事を任す事が出来る存在だ。
ノイント・エンデの足元で飛び跳ねている個体達はコウのサポートをする為に先行していただけであり、現在降下している彼らが本隊に当たる。
一方の機体、アルトは無骨な見た目をしている。
「効率を考えればDPの方が良かったと思うのですが、本当にアルトで良かったのですか?」
「あぁ。狭い所にも行かせたいが、DP以上のパワーは欲しいからな」
ノイント・エンデの足元ではプレンティが地面を叩き抗議してるが、艦内での雑務を想定し作られた彼らが非力なのは致し方ない。
一方のアルトは戦闘も視野に入れた設計が成されており、全てにおいて頑丈な事が取り柄である。
様々な兵装を装備しているが攻撃手段は物理に限られており、過去の作業で大きな活躍を見せていた為にこうして選ばれた。
「第一陣、作業開始しました」
「オーライ」
そんな機体群が降下して以降はほとんどがアイオーンの仕事である。
コウは時折呼び戻され巨大な岩を破壊しつつ、ノイント・エンデでネストを見て回った。
ほぼ全てを回る頃にはナインでの日が沈む時間であり、彼はレーヴェへと帰還し休息を取った。
――――――――――――――――――――
ネストの開拓開始から数日。
気温もかなり落ち着き、整備は着々と進んでいた。
「スピルリナ軍艦隊からの緊急連絡です」
「む? 何事だね」
内容はエレボス宙域から大量のレノプシスが襲来しているという物だ。
スピルリナ軍の防衛線である程度は撃破したのだが、それでも倒しきれなかった個体がスピルリナ本星へ向かっている。
スピルリナの戦艦ではどうあがいても間に合わない事から、コウに応援要請が届けられたという事らしい。
「どうしますか?」
「まぁ近場で暴れられるのも邪魔だし、手を貸してやるとしよう」
レーヴェは開拓を切り上げ、ネストを離れる。
レノプシスとはすぐに会敵した。
「ノイント・エンデ、出撃する!!」
「他の機体は出しますか?」
「いや……この密度なら単機で行った方が効率的だろ」
「了解です」
レノプシスの数は比較的少ない。
スピルリナの防衛線である程度削られた事もあるが、そもそもの投入数が少なかったのだろう。
「アハト・グリゲン展開。半分はお前に任せるぜ!」
「了解、遠方の敵から処理します」
アイオーンに操作された刃はレノプシスの中心部を正確に貫き、確実に絶命させて回る。
そうして屠られるレノプシス達はコウを驚異と認識しているらしく、ある程度の数に纏まって波状攻撃を仕掛けた。
一方で隊列の後ろに居た個体はまた異なった挙動をしている。
「敵のルート変更を確認」
「何ィ? どこへ行こうってんだ……」
「この方向であれば、恐らくレーヴェを狙っているものと思われます」
瞬発的な速度が無いからこその頑丈さを持つレーヴェだが、大量のレノプシスに取り付かれ囓られては一溜まりもない。
コウはすぐに判断を下す。
「仕方ない……シュトロームを出してシールド強度を上げろ」
「了解しました」
既に発進準備を終えていたシュトロームは大した時間を置かず戦場へ舞い降りた。
一方のシールド強度を上げたレーヴェは纏う金色の濃度を更に上げ、下部に付着していた土を離散させた。
「レノプシスの軌道がまた逸れたぞ?」
「そちらは私で対処しましょう。アハト・グリゲンのコントロールはお返しします」
「オーライ」
コウは真正面からレノプシスを相手取り、八本の刃と共に戦場を舞う。
一方のアイオーンはシュトロームでレーヴェを護衛している。
そんな折、彼女はレーヴェから離散したネストの岩石に反応する様子を目撃した。
「ネストの土には何かしらの結晶体が混じっているという話ですが……」
アイオーンの疑問に答えられる者はその場に存在せず、答えも出ないまま戦闘は終了。
周囲の索敵が終了するのとほぼ同時にオーラからの通信が入った。
『こちらは無事にレノプシスの掃討を完了した。ネスト方面の様子はどうだ?』
「コッチも今終わった所……だが、流石に弱すぎねぇかスピルリナ軍」
『返す言葉も無い……』
レノプシスは本来、スピルリナ軍が対処すべき相手である。
だがパーゲル軍との戦闘からそれほど日が経っていない事を考えれば仕方の無い事なのかもしれない。
そう思考を逸らす事の出来ないオーラは話を逸らした。
『ついでに聞いておくのだが、ネストの開拓は順調に進んでいるか?』
「おう、まぁ程々にって所だな。草木無いから楽ではあるが……」
「資材が少々厳し目ですね」
ネスト周辺のデブリはほぼ回収し、現在はプレンティによる分別と拠点建築が進行している。
それが本人の意思による物だけであれば良いのだが、オーラの頭には別の可能性が過り確認の必要性が出てきた。
『拠点建築用の資材が必要であれば付近の艦隊に要請を、と思っていたのだが……』
「あぁ。艦隊が来てないんだよな」
『やはりそうか。配置換えがあったとは聞いたが、付近の通過すらしていないとは……重ね重ね申し訳無い』
オーラは通信越しに深く頭を下げて謝罪の意を示す。
王族権限で巡回コースが変更されている事から、誰の手による物かは大方検討は付いている。
だが今は目の前の自体に対処しなくてはならない。
「大丈夫だって。ジャンクパーツから組むのも面白いじゃん」
『いや、しかし……』
「まぁまぁ気にすんなって。……で、本題は何だ?」
『そちらもお見通しか……』
コウもオーラもただの報告だけで長々と話をするタイプでは無い。
何か裏がある事は最初から分かっていたのだ。
『我々スピルリナ軍は軍備拡大を決定し、新たな機体を導入する事に決めた。だが機体の新規開発を行う余力が今の我々には無い』
「ほう、つまり?」
『コウ殿に新たな依頼をお願いしたい。スピルリナ軍は早急に防衛戦力を揃えなければならないのでね』
この世界の各宙域には宙域間ゲートという巨大構造物が設置されている。
宙域を治める国には、リーネアという国によって設置されたそれを守る義務があった。
『今回はグリーゼ宙域自体が狙いだった事もあり、あれらは狙われなかったようだが……』
「次はそうも行かないでしょうね」
少なくともレノプシス等のブルームが居れば、パーゲル軍は真正面からスピルリナ軍を圧倒出来る事が分かった。
それらの生命体がどれだけ今後の戦場に現れるかは不明だが、判明している驚異に対する対策は必要となる。
「ん~そうだなぁ……スピラリスの設計データと運用データ、後は生産に必要な資材を提供してくれるなら作ってやらん事も無い」
『データか……』
「あぁ。丁度良い機体があるから、アレを少しカスタマイズして渡してやろう」
国としては一個人に預けがたい要素である。
だがこうして要求されては断り辛い物だ。
『……分かった。契約書は先に作成しておくから、好きな時にMMOで受注してくれ』
「毎度ありぃ~」
後日コウはMMO経由でスピラリスの設計データと運用データを受け取り、トルトニスという機体を一万機ほど納品した。
名前には雷鳴という意味があり、彼はある意味で伝説を体現したと言えるだろう。
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