第20話 ネストの拠点
機体の調子はすぐに回復したが、燃料補給の為に一度レーヴェへと戻る事となった。
「それでよ、ここからどうしようかね?」
惑星の軌道変更という一番大きな仕事は終了した。
だが地表を生身で過ごせるレベルにするには、まだするべきことが山のようにあるだろう。
「まずは拠点を作っては如何でしょうか」
「そうだな~……そうするか」
コウはアルカディア時代に惑星開拓を行った事がある。
資源を採集する為の惑星開拓であり全行程を一人だけで成し遂げた事は無いが、結果的に全ての段階は経験していた。
つまりはある程度のノウハウは持っているのだ。
「拠点のデザインはどうしますか?」
「いつもの汎用品で良いだろ」
「了解しました。建材はどうしますか?」
「そうだなぁ……」
レーヴェはかなりの量の資材が保管されている。
だがほとんどはAM等の機体を生産する為の物であり、建材として使用するには適さない。
無理矢理にでも使用する選択肢も存在はするが、アイオーンがこうして聞いて来たと言う事は他の選択肢もあるのだろう。
「クラヴィスの残骸を使えないか?」
スピルリナはコウと共にパーゲル軍を追い出した。
だが撃破した敵機の残骸は未だ清掃出来ておらず、周辺宙域を漂っているはずだ。
「言うと思っていました」
「って事は?」
「既にシミュレーション済み、そして使用可能です」
クラヴィスはシンプルな見た目をしているが、それは基礎の設計部分でも同じ事が言える。
つまり資材として利用するには最適な存在だ。
それはスピルリナとしても願ったり叶ったりの提案であり、先程パトロールへ戻ったオーラを経由した返事も素早く簡潔な物である。
「存分に使ってくれ……だそうですよ」
「っしゃぁ! いっちょやるか!!」
――――――――――――――――――――
レーヴェからプレンティを放出してクラヴィスの残骸を回収を始めた。
分別は後回しとして、コウもノイント・エンデで大型ネットを用いて参加している。
そんな状況の中、アイオーンは一つの提言を行う。
「地上拠点の増設だと?」
「はい。少量であればレーヴェ内部で作業しても良いと思いますが、大量であれば専用の施設を設置した方が効率的かと」
アイオーンの言葉には一理ある。
コウの許可を得た彼女はすぐさま行動を起こし、いくつかの資材保管場所と作業場所。
そしてプレンティを配備出来る地上拠点を作成した。
配置は将来的に建設される地上拠点との連携も考え行われている。
「で、何で俺がコレをやんなきゃいけないわけ?」
「まぁまぁ、そう言わずに」
コウはプレンティに連れられ、ジャンクヤードと名付けられた場所へ向かう。
そこではテープを持つプレンティ達が待ち構えていた。
「マスターマスター! ハヤクハヤク!!」
「分かった! 分かったから押すなって!!」
プレンティに急かされ、コウは共にテープを持つ。
だが彼だけには中央に立たされる事とハサミも持たされるという違いがあった。
「えっ、何すれば良いんだコレ」
「キッテクダサイ!」
「おっ……おぉう!!」
勢い良くテープを断ち切る。
すると集まっていたプレンティ達が歓声と共に拍手を送った。
「何だか良く分からんが……祝え!!」
「さぁさぁ満足したでしょう、アナタ達は業務を開始して下さい」
「ブー!」
「サブマスノケチー!!」
「うるさい子達ですねぇ……資材を数えるだけの仕事に配置転換してあげましょうか?」
「「ゴッ、ゴメンナサーイ!!!」」
「元気だなぁ~……」
アイオーンはプレンティにハッキングを仕掛けてじゃれ合う。
施設周辺で逃げ惑うプレンティ達だが、彼らは単調な作業で特に大きな成果を見せていた。
アイオーンからの指示には微妙な反応を示す一方、コウからの激励一つで大盛り上がりして全力を出しているからだ。
地上拠点の建設は残骸の仕分け同時に開始された。
「今日中の完成は流石に無理か」
「はい、今しばらくお待ち下さい」
ジャンクヤードでの一件を終えたコウは、レーヴェに戻るとそのまま就寝した。
一方の地上拠点は本気を出したプレンティの手にかかれば一晩で完成させる事も夢では無かったらしい。
「……仕事が早いな」
「コウエイ! コウエイ!」
「アリガタキオコトバ!!」
「ミンナー!ホメラレタヨー!!」
「ナンダッテー!?」
「ヤッタヤッター!!」
拠点の構成自体はレーヴェが停泊可能な広さを持つ宇宙港に、軽い生活能力や資材の保管能力を持たせただけのモノである。
元々想定されていた原生生物対策で塀や迎撃装置の類も置かれているが、それらの装置をネストで設置しても損は無いだろう。
「まぁレーヴェのプリンターで出力したブロックを組み上げるだけなので、大した事はしていませんが」
「サブマス、テレテル?」
「ウソデショォー!?」
「……照れてません」
「デモ~、ナンダカカオガアカ……カカカッカッ!!」
「アァ、ナンバー223ガヤラレタ!!」
「いや……そりゃそうなるて」
今後は半透明のドームで覆われた施設がネストにおける本拠点となる。
拠点に降りたコウは管理棟へ向かい、作戦司令室へと入った。
「拠点名はどうしますか?」
「そうだな……適当にナインとかで良いんじゃないか?」
「ネストと来てナインですか……」
「ボールとセラフは無いけどな」
雑談をしつつ作戦司令室の機材を起動する。
内装はコウの知るままであり、小物の配置を含めた一切が変わっていない。
「さーてと、皆が頑張ってたみたいだし……俺もいっちょ本気出してやりますか!」
モニターテーブルを操作してレーヴェと接続し、ネストの最新映像をホログラムとして空中に映し出す。
軌道変更後の様子はアイオーンがレーヴェで観測しており、観測手は様々なデータと共に姿を現した。
だがコウはそれに構うこと無くネスト全体を眺める。
「移動させてからの様子はどんな感じだ?」
「変化は概ね予想通りです。まだ気温は低いですが許容範囲内、もう少し時間があれば過ごしやすい気候に落ち着くかと」
気温の上昇に伴い、既に地下で凍りついていた水が吹き出している地点もあるらしい。
その辺りの情報を加味したシミュレーションをアイオーンは実行し、いくつかの予想図を表示した。
「どのように整備しますか?」
「そうだなぁ……ほとんど農場にして、ちょこちょこ牧草地をってはどうだ?」
「反映します」
ホログラムのネストはアイオーンの手によって変化する。
現在彼が居る拠点を中心として大規模農場が惑星全体を覆うように作られたが、コウの表情は微妙な物である。
「ん~……ピンと来ないな」
「以前にも似たようなシチュエーションはありましたからね」
彼ら惑星を資源採集の場とした事はあっても、テラフォーミングした経験は少ない。
故にアイオーンの示した最適解も本当に最適解かどうかの判断が付きにくい状況であった。
「あ、そういえば前作った拠点って行けないのか? 座標データは残ってたが」
「残念ですが行くことは出来ません。過去の座標と現在の座標が大きく違うという事もありますが、そもそもアルカディアの星はこの世界存在しないようなので」
「そう……か」
アルカディア時代にコウ達の渡り歩いた場所はあくまでもプログラム上の世界。
こうして現実に行ける場所ではないのだ、と彼は自分を納得させた。
「……ん? なら何でレーヴェはあるんだ?」
「それは、その……秘密です」
「そうなの? まぁ良いけどさ」
「はい。今は目の前の事に集中しましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます