第14話 艦隊戦






 パーゲル軍に奪われた拠点は全てスピルリナが奪還した。

 つまり残るはグリーゼ宙域から彼らを追い出すだけであり、今後予想されるのは真正面からの全戦力によるぶつかり合いである。


『――パーゲルに攻め入られてから今日この時まで、私達は金獅子の力に頼ってきました。ですがそれも今日で終わりです!! 私達だけでも私達の国を守りきれると示すのです!!!』


 スピルリナ王女による演説。

 歓喜する兵士達が居る一方、それを冷めた目で見る者達も存在する。


「茶番だな……」

「茶番ですね……」

「ハハハ……」


 自分達だけの力で国を守りきれる、その言葉は全ての拠点を奪還した今なら言える真実なのだろう。

 だが損害を軽微な物とする為、今回も力を貸して欲しいとオーラからコウに伝令が届けられている。


「まぁ良い、最後のお仕事と行きますか」

「ですね」

「あっ、あの! 私が乗ったままなのだが……」

「今から外に出す方が危ないだろ。特等席で観戦させてやっから、大人しくしてろよ!!」

「そんな……」






――――――――――――――――――――






 レーヴェは艦隊の最も外側に配置されているのだが、その巨体と色が故に視線を集める。

 少しでも突出すれば多くの戦艦から注目を集める事は間違いない。


『あの巨大戦艦はまさか……金獅子か!?』

『間違いない、ヤツだ!』


 今回も通信の傍受は絶好調のようだ。

 味方通信との混線も予想されていたが、それらは全てアイオーンが捌き切っている。


「どうもどうも、金獅子ちゃんでーす」

「いやもっと抑揚付けよう?」

「無理です、私AIなので」

「またまたぁ……」

『あの野郎、隊長の仇だ! 絶対に落してやる!!』

『いや俺まだ生きてるから……』


 両艦隊は既にお互いの射程圏内の目前にまで迫っている。

 開戦も秒読みといった状況だろう。


「にしても、随分と有名になったモンだよなぁ」

「ですね」


 少し前までは未確認機としか呼ばれなかったコウだが、今ではスピルリナに伝わる伝説。

 そして母艦であるレーヴェの意匠により、金獅子と呼ばれるようになった。


『ですが金獅子は一時間も経たずに艦隊とレノプシスの一団を壊滅させたという話もあります、対応は慎重にすべきだと思いますが……どうしますか? 隊長』

『その噂が本当なんだから、出来る事なら今すぐ帰りたいさ。だが今回の俺達は数で圧倒している、いつもどおり囲んで叩けば勝てない相手じゃない!!』

『『『了解!!』』』

「俺も早めに帰りたいから、固まってくれるのは正直助かるんだよなぁ……」


 両艦隊は当初の作戦通り真正面から叩き合うつもりらしい。

 スピルリナからは別方面に展開した軍の相手をしてくれ……とも言われているが、コウに与えられた一番の任務は兎に角前線で暴れること。


 別働隊を叩こうが別働隊になろうが、全ては彼自身の自由であった。


「先行してド真ん中を突っ切るかねぇ。アイオーンはヴァイス・ブリッツとノイント・エンデでレーヴェの護衛、俺はシュトロームで真正面を叩く」

「了解しました。他の機体は出しますか?」

「この戦力相手なら必要無いだろうさ。それにお前なら守りきれる、だろ?」

「勿論です」

「オーラァーイ! んじゃ、行くぜ!!」


 レーヴェの近くに三つのワープゲートが開かれ、それぞれから異なった機体が広大な宇宙へと飛び出す。


 陣形はコウの駆るシュトロームが先行し、後ろにレーヴェを挟んだヴァイス・ブリッツとノイント・エンデが追従するという形だ。

 味方艦隊から発進したAMもそれに続くように展開、程なくして戦闘は開始された。


「派手だねぇ……」

「巻き込まれないように注意して下さいよ?」

「へいへい、わーってるよ」


 コウに続く機体群の多くは大型ランスと中型ライフルを装備しているが、これはAMとアレス対策である。

 他の機体はミサイル等の遠距離兵装で統一している為、近接武器を持った相手に近付かれれば抵抗もままならず撃破されてしまうのだ。


「そういえば対艦攻撃に関するレポートはご覧いただけましたか?」

「あぁ。この世界の戦艦が使うビームはプラズマ系で、その防御には耐熱効果のある磁場を使うんだってな」

「はい。なのでAM相手なら兎も角、シュトロームで戦艦を相手取るのは少々面倒かと」

「モロに対策されてるやつだもんなぁ~……」


 既存の対策が有効である事はそれなりのアドバンテージとなる。

 だがそれでも、攻撃手段としての有用性は早々に崩れる物では無い。


「そろそろ味方AMも射程距離に敵を捉えた頃かと」

「うっし……んじゃ、俺達も戦闘開始だ」


 コウの呟きと同時に、シュトロームは連結式バスターライフルを前へ向ける。

 躊躇無く引かれた引き金によって銃口に光が集まり、パーゲル軍に機動戦の始まりを告げる光の筋が届けられた。


 一部の小型戦艦は機動性を生かして回避し、大型戦艦はその頑丈さを生かして耐え抜く。

 一方の対策を持たず待機していたレノプシスは十数匹が爆散していた。


「またあのイカか……他に手札は無いのかねぇ?」

「アレスはクラルスに配置されていましたが、全て撃破しましたからね。相手が存在を秘匿していないのであれば増援は来ていないのでしょう」

「ふーむ……これ以上の戦力を借りるには支援者からの信頼度が足りない、といった所か?」

「かもしれませんね。それとあえて補足しますが、彼らの名前はレノプシスです」

「へいへーい」


 コウの言うイカ、レノプシスの大群は二手に分かれてレーヴェを包囲する。

 パーゲル軍艦隊はその横を抜けて行き、やや後方に位置するスピルリナ軍艦隊との砲撃戦を再開した。


「取り囲むってんなら、取る手はミサイルカーニバルだな。アイオーン!」

「全く……AI使いの荒い人です」


 文句を言いつつも微笑むアイオーンを他所に、コウは操縦桿のトリガーを何度も引く。

 同時に無数のレノプシスをロックオンしたシュトロームは全身からミサイルを放ち、次々と爆散させていった。


 アイオーンはそれら全てを最大限の有効打として活用出来るが、それだけの弾幕を作り出そうと無理やりに突破し肉薄する個体は僅かながら存在する。


「でも近づいちゃ駄目なんだよなぁ、残念だけど」

「マグネティズムフィールド展開」


 アイオーンの指示を受け、シュトロームは両肩に取り付けられたパーツを光らせる。

 すると数体のレノプシスは体内の血肉を加熱され膨張し、最後には爆散し命を終わらせた。


「うわぁ、グロぉ……」

「コチラでモザイク処理しておきましょうか?」

「頼むわ」


 レノプシスは大した知能を持たないが、突然仲間が爆散すれば相手を警戒する。

 多くの個体が足を止めた事を感知したパーゲル軍はレノプシスを引かせ、遠距離主体のクラヴィス隊へとコウに当てる戦力を切り替えた。


「レノプシスの討伐率は全体の30%……。結果としては良好な方でしょうかね」

「だな~。にしても、文句言っても手伝ってくれるの好きだよ」

「好き、ですか。……私も好きですよ」

「よせやい恥ずかしい。まぁ、嬉しいけどさ」


 単身先行しているシュトロームにはクラヴィスが当たり、ヴァイス・ブリッツとノイント・エンデの護るレーヴェにはレノプシスが当たる。

 こうした会話を繰り広げている間にも、二人は戦闘を優位に進めていた。


『グァァァァアアアッ!? あ……後は、頼んだぞぉ!! お前達ぃぃぃい!!!』

『クソッ! 隊長がやられた!!』

『俺が指揮を継ぐ!!』

『『『副隊長!!』』』

「……無粋な人達ですね」

「……無粋な奴らだな」


 アイオーンによる攻撃は一層苛烈を極め、レノプシスの大群はその大半が消し去られた。

 一方のコウはクラヴィスに中型戦艦が交じり始めた事により、僅かではあるが撃墜速度を落している。


「ヴァイス・ブリッツで援護します」

「助かる」


 中型以降の戦艦に搭載されたシールドを単身で突き破るには少々骨が折れる。

 だがシュトロームとヴァイス・ブリッツはペアで行動する前提で設計され、これまで運用されて来た。


「リンク完了。いつでも開始して下さい」

「りょーかい」


 レーヴェの前で並び立つ白と黒の機体は、それぞれが持つライフルの片方を敵へ向ける。


「さて、あの戦法が通用するか……」





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