第13話 クラルス
コウはオセアンに入り込んだレノプシスを殲滅。
そのお礼に最寄りの防衛拠点でオセアンカジキを振る舞われたのだが、彼はその独特な風味と食感が忘れられずに居た。
「どうやって作ってたんだろうな、アレ……」
「レンケス産の植物を混ぜていたようですよ?」
「ほうほう。レンケスって言うと~……」
「少し前に開放した惑星ですね、植物は地表で動き回っていたアレです」
「うわっ、マジか! アレ食えたのか……」
オセアンでの戦いから更に時間が経過した今、コウの荒らしたパーゲル軍拠点はかなりの数になる。
スピルリナ軍もそれに続いて戦闘を行い、一度は奪われた拠点を次々と奪還。
グリーゼ宙域からのパーゲル軍完全撃退は目前に迫っていた。
「さて。目的地は目の前ですよ」
「最後の拠点……クラルスか」
そこは以前護衛した難民船に乗っていた、クラルス人の住む広大な惑星。
グリーゼ宙域宙域最外端に位置する事からパーゲル軍のスピルリナ侵攻における重要拠点となっていた。
ここを取り返す事が出来れば、スピルリナはパーゲル軍をグリーゼ宙域から完全に追い出せるだろう。
――――――――――――――――――――
『さてコウ殿、事前にもう一度作戦内容を確認しておきたい。大丈夫か?』
「おう」
『今回の作戦でコウ殿に頼みたいのは、クラルスに降り立ったブルーム……アレスの討伐だ』
アレスは盾と槍の前足を持つキメラ型ブルームの名前。
以前にも何度か戦闘で姿を現しており、単純な戦闘能力で言えばレノプシスより強力である。
だが数は少なく、スピルリナ軍でも数による圧殺で対処は可能だ。
「問題は星の方だったな」
『あぁ』
クラルスは重力が強い。
それは非常に高性能なサイボーグか、この地で生まれ育ったクラルス人でしか活動がままならない程である。
「ま、俺らなら大丈夫だろうけどな」
『そうなのか?』
「技術の粋を集めた機体ってのは伊達じゃない。重力異常エリアへの対策なんて、とっくの昔にやってるっての」
「まぁそうでなくても問題は無いでしょうが……」
一対の羽を持つ赤い機体、ノイント・エンデがレーヴェから離脱。
重力に従って大気圏内へと降下し、地上へと降り立った。
「これがクラルスか……」
コウが初めて訪れた異種族の母星は背の高い建物、具体的には20m以上の高さを持った建物が極端に少ない。
それはノイント・エンデが身体を隠す場所が無いという事でもある。
「どう動きますか?」
「そりゃあもうアレよ、丁度調整を終えたオメガレーザーの出番ってやつよ」
低い建物が多いと言う事は高所からの射撃が通りやすい。
そしてアレスは遠距離攻撃の手段を持たず、飛行能力を持たない相手であった。
「更には建物と地形がとても頑丈で、多少の衝撃では傷一つ付けられない。我々が暴れるには最高の環境ですね」
「そうだな……っと、早速お出ましだ」
四肢を持たず高速で動く事の出来たレノプシスは、宇宙空間や水中向けと言える進化を遂げている。
一方でアレスは四肢と武器を持っており、地上での近接戦闘においてその存在意義を発揮させる。
「まぁそれに応じるって訳じゃないんだがな」
アレスは素早く距離を詰め、鋭い突きを放つ。
コウは慌てること無く回避して距離を取り、機体に地を踏みしめさせ右腕を向ける。
「まずは一匹」
操縦桿のトリガーを引く。
それだけの動作で腕部に取り付けられた二つの銃口から光弾が放たれた。
アレスは何が起きたかも把握仕切る前にその頭部を消滅させられた一方、ノイント・エンデは数メートル後退していた。
「……ックゥ~! やっぱ荷電粒子砲の反動は効くなぁ!!」
アイオーンは今回も各種データを収集しているが、その数値は全て許容範囲内。
そして威力は申し分無いレベルである。
「次はスラスター起動状態で行くぞ」
「了解です。カウンターはお任せを」
レノプシスと違ってアレスは纏まった群れを作る事が少ない。
どちらかと言えばそれがブルーム全体の特性ではあるらしいのだが、今回に限っては探索の手間が増える一方である。
「キメラはどこかな~……っと、居た居た」
コウは数分飛び回ってようやく次の獲物を発見した。
クラルス自体が広大な惑星な事もあり、探索には一苦労である。
「まだコチラを視認していないようですね」
「基本飛行音が無いからな」
「不意打ちしますか?」
「出来るなら……なっ!」
今度は左腕を向け、空中で光弾を発射した。
機体は僅かにブレるが反動はほぼ完全に押し殺している。
「っと、どうだ?」
「命中です」
普通であれば不可能な狙撃紛いの行動であるが、コウとアイオーンであれば可能である。
音もなく近付かれ、反撃や認識をする間もなく爆散させられたアレスは不運としか言いようが無い。
「じゃ、このまま行くとしますか」
「了解です」
途中からはアハト・グリンゲンも展開して攻撃を行い、アレスの殲滅速度は加速した。
最初の数匹以降はスピルリナ軍艦隊による包囲網と観測もあり、多少は速やかな移動が可能となっていたのだろう。
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