第11話 撤退支援






 スピルリナ本星に帰還した艦隊は補給を開始。

 レーヴェはすぐに戦闘可能だが、パイロットの負担等を考え数日の休息を取る事とした。


「で、何故コウは休んでいないのですか?」

「機械いじりしてるのが一番落ち着くからな」


 コウはプレンティ達も動員してノイント・エンデの調整を行っている。

 だがそれも終わらぬ内にオーラからの連絡が入った。


『コウ殿!』

「ん? 何だ何だそんなに慌てて」

『すまない、火急の要件だ。今すぐ動けるのであれば難民船を救助して欲しい』

「ほぉう……?」






――――――――――――――――――――






 スピルリナからの要請はクラルスという惑星に住む人々の救助、そしてレンケスという星の開放の二つ。

 オーラはそれだけを伝えて通信を終え、内容を聞いたコウもすぐに行動を開始した。


『先日撃退した艦隊は他の艦隊と合流してエレボス宙域へ後退している。そこまでは良かったのだが、その先に位置する星々が狙われる可能性が出てきた』

「そんでレンケスの方はもう取られちゃった……と」

『そうだ。向こうも消耗はしているはずなのだが、我々はそれ以上に疲弊している……。派遣していた防衛隊がクラルス人の救助には辛うじて成功したらしいのだが、今度はその難民船に追撃部隊が向かっている』

「おいおい、マジモンのピンチじゃねぇか……」


 ちなみにクラルス人は硬い外殻を持った虫のような見た目の人々らしい。

 性格は穏やかで高い知能を兼ね備えていると言う。


「一番の特徴は喋る時に甲高い金属音が交じる事らしいですよ」

「ほぉ、コッチは色んな奴が居るんだなぁ~」


 アルカディアは惑星開拓も出来る場所だったが、異種間コミュニケーションを行うゲームでは無い。

 故に異星人らしい異星人はほぼ存在せず、登場するキャラクターのほとんどが地球人タイプであった。


「まぁアッチはプレイヤーが一番の異星人だった訳だが……」

「味方艦船と敵艦隊を確認、拡大表示します」


 スピルリナの小型船団は大型船を守るような陣形を組み、スピラリスと共に移動している。

 対するパーゲル軍艦隊は単調な波状攻撃を仕掛けていた。


「ですがアレは……」

「新手のブルームってやつか?」

「大方スポンサーからの援助が来た、と言う所でしょうか」


 これまでの戦場で見かけたのはイカのような見た目のレノプシスのみであったが、今回は武器のような前足を持つキメラも戦闘に参加している。

 それらの相手はスピラリスが担っているが、戦況はあまり芳しくないらしい。

 既にかなりの数の味方が撃墜させられているようだ。


「狼と猪と……キツツキか? まぁ良い。俺はシュトロームで先行、アオは味方への呼びかけとヴァイス・ブリッツでの援護を頼む」

「了解しました」


 ネスト戦以降はレーヴェの貯蔵エネルギーも既定値を上回り、アイオーンも戦闘に協力可能となっている。

 コウはレーヴェからシュトロームで出撃し先行した。


「そこの大型戦艦、聞こえますか? 我々はスピルリナ軍所属のレーヴェです」

『ようやく来てくれたか!!』

「はい、アナタ達を助けるのが我々の仕事です。出来ればそれを邪魔しない為に早く戦闘区域から早く離れて下さい」

『しかし……いや、承知した。我々は全速力でスピルリナへと向かう』

「物分りが良くて助かります」


 小型戦艦はスピラリスを収容して難民船の後を追う。

 パーゲル軍の戦艦がそれを追おうとするが、艦隊の最後方を塞ぐようにしてレーヴェが立ちはだかった。


『くっ……またしても貴様らか! 何故そこまで邪魔をするッ!!』

「それが仕事だからな」

「ミサイルの誘導はお任せ下さい」

「頼んだ」


 白と黒の機体が宇宙を駆け巡り、爆炎の花を次々と作り上げる。

 だが撃破率は以前より少々落ちていた。


『何だ何だァ? 噂の金獅子様もこの程度かよォ!!』

『小破と中破ばっかりじゃねぇか!!!』

「作戦の意図によって行動を変えるのが普通では?」


 その理由はコウとアイオーンが艦船の破壊だけを狙っていることにある。

 ただ撃破するだけであればコックピットなり艦橋なりを直接破壊すれば良いのだが、彼らは執拗に動力部だけを狙っているのだ。


「コウ、少し削り過ぎです」

「うっせ!! わーってるっつーの!!!」


 アイオーンはそう言うが、実際は命中精度の低いデュアルプラズマライフルを人力でここまで思うように扱えている事がおかしい。

 中距離射撃戦ですらままならない武器であると言うのに、コウは未来予知で強引に狙いを修正していく。


『まさかコイツら……撃破を目的としていないのか!!』

「気付くのが遅いっての」


 レーヴェに隠された難民船は既に遠く離れた。

 そしてパーゲル軍艦隊の損害は限界に達している。


『クッ……敵の追撃限界ライン突破を確認。撤退するぞ!!』

『『『了解……ッ』』』


 新種のブルームに対する損害を押さえられたのが唯一の収穫となったであろうパーゲル軍艦隊は渋々と撤退を開始した。

 射程圏から外れた事を確認し、コウは操縦桿から手を離した。


「ふぃ~、間に合って良かったぜぇ……」

「ですね。難民船から通信が入っていますが、どうしますか?」

「ん? そうだな……たまには聞くとするか」


 コウはタッチパネルを操作し、メインモニターに大型船からの映像を映した。


『君が噂の金獅子……いや、レーヴェの主か?』

「おう」

『そうか、先程は世話になったな』

「構わんよ」

『そう言って頂けるとありがたい。……今度何かを奢らせてくれ』

「お? 良いねぇ、是非頼むよ」

『では、今後のご健闘を』

「良い航行を」


 通信は終了し、シュトロームは自動操縦でレーヴェを目指す。

 その中で腕を組むコウの顔には僅かながら笑みが浮かんでいた。


「……たまには感謝されるってのも悪くないな」

「ですね」





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