第9話 先読みの高速戦闘






 艦隊は大型戦艦を中心として組まれる事が多い。

 大抵の場合では一番硬い船に指揮官が乗っているからだ。


「壮観だな」

「大型戦艦は500m級が主流ですが、レーヴェは600mを超えています。そこまで巨大な物体が二つも並べば壮観にもなるでしょう」


 軍港を出発したレーヴェは予定通りのルートで進軍を開始した。

 スピルリナとの窓口役をしていたオーラはブルーム迎撃の方に動かなければならないらしく、現在は同行していない。


「機体はもう積んであるんだよな?」

「はい、ヴァイス・ブリッツとシュトロームの二機を小型戦艦で輸送させています。少々手狭なようですが……」

「上等だ」


 コウは今回の戦いでノイント・エンデを使用しない。

 かの機体自体がアイオーンとフルに連携しなければ全力を出せず未だに調整が済んでいない……という問題もあるが、そもそも今回の戦いではそこまでの戦力が必要では無いと感じたが故の決定である。


 一方のアイオーンを受け、レーヴェから二つの機体を乗せられた小型戦艦の空気は異様な物であった。


『我々が輸送出来るのはここまでです……が、本当にここで下ろしてよろしいのですか?』

「良いんだよ。こういうのは端から食うのも面白いが、ド真ん中から行くのも面白い」

『そう、ですか……』


 コウに対する期待、そして単身で最前線に突っ込む不安。

 そうした感情を抱え会話を続けながらも、小型戦艦の乗組員は着々と準備を進めた。


 二体の内の一機が格納庫から戦艦上部に移送され、脚部がカタパルトへと接続される。


『……カタパルト準備完了、いつでもどうぞ!』

「サンキュー。ヴァイス・ブリッツ、出撃する!!」


 カタパルトにより加速させられた白い機体は、青白い光を纏い小型戦艦を飛び出す。

 二丁のライフルを握り込み向かう先は多くの敵が待ち構える戦場だ。


「なぁアオ、今更だがコイツの武装類と稼働に問題は無いよな」

「本当に今更ですね。事前チェックではほぼ問題ありませんでしたが、感覚的な部分が気になるのであれば少し遊んでみてはいかがでしょう」

「それもそうだな。じゃ……観測と比較よろしく」

「了解です」


 視界の端に現れた小さなアイオーンがコントロールパネルを開いた事を確認したコウは、操縦桿に取り付けられたトリガーを握り込む。

 すると機体胸部のパーツが展開し、青白い雷を機体全体へと送り届けた。


「カーラントコントロール正常に起動」

「よーし……」


 雷は機体各所へと伝播し、移動速度を不自然な程に上げる。

 だがそうした状態で戦場へ向かえば簡単に敵の目を集める事だろう。


『何だ、新手か?』

『識別信号に該当無し、未確認機です!』

『今このタイミングで来るとはな。……撃ち落せ!!』

『『了解!!』』


 クラヴィスが一斉射撃を開始するが、コウは全てを鋭い機動で回避した。

 更にはパーゲル軍艦隊の前方に展開されていたクラヴィス隊を突き抜け、艦隊の後方へと向かった。


『何という速さだ……!』

「デモンストレーションとしては最高の場だが……アオ、観測の方はどうだ?」

「良好です。過去の戦闘データと比較しても遜色無い上に、現在の方が動作に自由度があります」

「システムサポートの良し悪し、って所か」


 ヴァイス・ブリッツの移動は素早いが、パーゲル軍の反応も負けてはいない。

 既に艦隊の中央を陣取っていた大型戦艦は身を引き、各種戦艦による包囲網を完成させつつある。


『隊長、どうしますか?』

『相手は単機、包囲もほとんど済んでいる。スピルリナの連中も手を出してこないなら……俺達は真正面から一気に行くぞ!!』

『『『了解ッ!!!』』』

「……観測終了。戦闘開始だ」

「了解しました」


 コウの周囲を取り囲んだパーゲル軍は同士討ちもお構い無し、とばかりに攻撃を開始した。


 だがヴァイス・ブリッツは三次元的に動く。

 先程までとは比べ物にならない程に早く、そして鋭い動きは相手を一切寄せ付ける事が無い。


『クッ……だがどれだけ素早かろうと、あんな細いライフルで我々の機体を倒せるはずが無い!!』

「倒せちゃうんだな~、これが」


 コウが初めてトリガーを引く。

 パーゲル軍の言う“細いライフル”は、超高速で雷を纏った弾丸を射出した。


『へへっ、そんな攻撃……うわぁぁぁああ!!!』

『貫通しただと!?』

「やっぱ出会い頭に撃った方が良かったな」


 弾丸は真正面に居たクラヴィス数機を貫通し、撃破するに至った。

 その情報は爆発の衝撃が伝播すると共に艦隊全体へと共有されている。


『隊長ッ! 味方が一直線に……!!』

『なっ、何だと!? ……何なのだ、あのライフルは』

「デュアルレールライフル、命中精度と貫通力に特化したレールガンです」

「んな律儀に説明しなくても……」

『この野郎!! 敵討ちだ!!!』

「後ろ、来ますよ」

「分かってるっての。……フッ!!」


 遠距離武器はある程度の距離が無ければ意味が無い。

 故に本来は一気に距離を詰める突貫も有効なはずなのだが、ヴァイス・ブリッツは回避と同時に蹴り飛ばす事で難なく対応した。


『グアァ!!』

「ボルテージミサイルを使う。ロックオンは任せたぜ」

「了解、最短で行きます」

「よろしくゥ!!」


 ヴァイス・ブリッツの両肩から光球が放たれる。

 弾速は遅く数も少ないが、不用心に近づいてしまった敵機は大きな爆発に巻き込まれてしまった。


『フレアじゃないのかよ!!』

『嘘だろッ!?』

「これで少しはスッキリしましたね」

「アオ、ナイス」

『クッソォォォオオオ!!!』


 コウとアイオーンは互いにサムズアップし、パーゲル軍は憎しみの声を上げ突撃を開始する。

 だが乱戦はコウの独壇場だ。


「来い……ッ!」

『このォ……』

「ハハハッ! 遅いんだよ!!」


 クラヴィスを蹴りつけ加速し、その勢いでまた別のクラヴィスに蹴りを食らわせる。

 遠くから砲撃してくる相手にはデュアルレールライフルで牽制を行い、砲撃にはノールックでカーラントミサイルを放ち迎撃。

 爆炎が晴れる頃には姿が無く、見つけたとしても攻撃を行う直前で感づかれ迎撃されてしまう。


 そして何よりも厄介なのは、回避先に味方の残骸を放り投げられる事だった。


『奴は未来が見えるとでも言うのか!?』

「悪いが見えてんだよ。アルカディアの時以上になァ!!」


 見える未来に従い、時には逆らって宇宙を縦横無尽に飛び回る。

 そして先程のお返しとばかりに弾丸をバラ撒き、コウは戦闘を優位に進めた。


 だがその撃破速度も次第に低下を見せている。


「ッチ、やっぱ数が減ってくると貫通力特化じゃあ厳しいか……」


 貫通特化の細い弾は直線上に並んだ多くの敵に対し、総合的に大きなダメージを与えられる性質がある。

 だが少数の敵を的確に撃ち抜き撃破するにはやや威力不足であった。


 そうした性質由来の結果である事を知らないパーゲル軍は、ありもしない勝機を見出し始めている。

 幸か不幸かその行動は正解であった。


『奴も疲れているのか……? だとしたら、勝てるぞ! 全員で奴を囲め!!』

『『了解!!』』

「こうも散られると面倒だな」


 薄くも確実に存在する包囲網、それはただ存在するだけで相手に圧を与える。

 相手の戦力が同等かそれ以下であればそうした行動も有意義だろう。


「機体を変えるか。アイオーン!!」

「了解しました……が、よろしいのですか?」

「同じ機体で戦い続けて名前を広げなくても……って事か?」


 それの成功例が最初の戦いとノイント・エンデである。

 アイオーンはそうした実績を示せば今後の交渉等で優位に動けるだろうと考えているのだ。


「戦闘は全部オレがやってるんだから良いだろ」

「そういう物なのでしょうか……?」

「勝ちゃ良いんだよ勝ちゃよ。名声云々はその先にあるモンだし、ぶっちゃけどうでも良い」


 コウはパーゲル軍艦隊に対してバレルロールを行うと同時にミサイルを放つ。

 それによって接近し過ぎていた小型戦艦やクラヴィスが爆炎の壁を作り出し、ヴァイス・ブリッツが後退する隙きが作り出された。


「コントロール権限正常に獲得。ヴァイス・ブリッツ、帰還開始します」

「サンキュー。んじゃこっちも……」


 コウがタッチパネルを操作すると、爆炎の煌めく宇宙を映した映像は失われる。

 そして次の瞬間にはスピルリナの小型戦艦内部に切り替わり、ヴァイス・ブリッツと対をなす機体が起動していた。


『あっ、あれ? さっきまで停止状態だったはずなのに……』

「驚かれてますね、やっぱり」

「機体変更でわざわざ降りなきゃってのが前時代的過ぎるんだよ。ロマンは認めるけどな」





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