2章 戦乱

第8話 作戦会議






 MMOから軍港のレーヴェへ帰還したコウはオーラを引き連れ、作戦会議室へ向かう。

 部屋の明かりは既に付けられており、中央のモニターテーブルにはホログラム状のアイオーンが待機している。


「で、今後の話だが……具体的な作戦案はあるのか?」

「ある程度は用意してある」


 元々スピルリナ軍の戦力はパーゲル軍を撃退出来るだけの量と質を誇っていた

 それがここまで押されている点には、レノプシスの存在とパーゲル軍元来の数が大きく関わっている。


 つまりコウがレノプシスの討伐かパーゲル軍の封じ込めを出来るのならば、スピルリナ軍は既存戦力で残りを押し返す事が可能だ。


「もっとも、コウ殿が 予想以上の強さを誇った為に作戦の細部を変更する必要はあったようだがな」

「そりゃどーも」


 コウの強力を仰げなかった場合、スピルリナには既存戦力で対抗するか他勢力から戦力を借りる必要があった。

 その時の為に作戦は様々な方法で流用可能な範囲で組み上げている。

 だが期待以上の逸材であるコウはその枠に収まらない。


 たった一度の戦闘だけで大きく修正されたパーゲル撃退戦、最初の奪還対象は依頼の報酬となっている星――


「――名前はネストと言う」

「ネスト……か。嫌な名前だなぁ」

「えっ、嫌……?」

「ここは地下世界じゃありません、安心して大丈夫です」

「地下世界……?」

「そういう時が一番危ないパターンなんだが、まぁあんま気にしても……って所だな」

「危ない……?」

「で、続きは?」

「あっ、あぁ……すまない」


 アイオーンは身を引き、スピルリナから提供されたデータを投影する。

 古くは岩石のみで構成された星だったようだが、いつからか異様に植物が増殖するようになったらしい。


「原因不明の植物増殖騒動が発生し、誰も寄り付かなくなった星か……。まぁ主要な場所は渡せないだろうと思ってたが、まさか厄介払いとはな」

「本当に申し訳ない。戦争が終結し国内の混乱を治めた後、何としても人が住めるようにしてみせる……!」


 だがネストの位置はスピルリナ本星に近い。

 ある意味ではコウを手元に置いている……とも言えるが、斬りたければ斬れという意思表示にも取れる。


 それを知ってか知らずか、コウ達の反応は軽い物であった。


「いや良いよ、たまには本気を出して惑星開拓ってのも良いだろうさ」

「ですね。……それで、作戦は?」

「あっ、あぁ。我々スピルリナ軍の主力部隊がレノプシスを足止めする。コウ殿にはその隙きを突いて、パーゲル軍艦隊を叩いて欲しい」


 今回コウが相手取る戦力は大型戦艦一隻、大型輸送艦五隻、中型戦艦二十隻、小型戦艦五十隻。

 そこに約五百機のクラヴィスが搭載されており、部隊として展開された時の戦力はかなりの物だろう。


「お前らが相手取る戦力としてはどんなモンだ?」

「かなりの物と言わざるを得ない。だが決して勝てぬ相手では無いだろう」

「ふーむ、なるほどねぇ……」


 クラヴィスの数は驚異的だが、生産性を追求した影響で性能はかなり低い。

 とは言え、ここまで集まった相手を通常戦力で戦うのは厳しいだろう。


 だからこそコウが当てられている。


「俺達が艦隊に当てられる理由は分かったが、レノ……レノなんちゃら」

「レノプシス」

「そうそれ、そのイカの方を相手しなくて良いのか?」

「今回は数が少ないから大丈夫だ」


 先の戦闘で多数撃破した事もあり、ネスト周辺で確認されたレノプシスの数は少ない。

 補給の為にこの宙域から離脱していると考えられているが、ここでパーゲル軍艦隊を叩け無ければスピルリナ軍に勝機は無いだろう。


「現状で配置以上の作戦は決まっていない為、詳細はそちらで自由に決めて貰って構わない」

「つまり細かい所は丸投げって事か」

「その方がやりやすいと思ってな。……迷惑、だったか?」


 オーラは不安そうな表情でコウを見つめる。

 だが彼はアイオーンと共に笑いかけた。


「いえ、問題ありません」

「こんだけ作戦がありゃ、後はどうにでもなる。まぁ任せろって」






――――――――――――――――――――






 作戦会議は無事に終了した。


 細かいすり合わせ等はアイオーンが対応する事となり、コウは早々にノイント・エンデの調整を開始。

 だがその作業も結局は終わる事が無く一日が経過した。


「おはようございます」

「おう、おはよう。昨日はあれからどうなったんだ?」

「はい。まずはそちらの報告からさせて頂きます」


 コウとノイント・エンデの母艦、レーヴェは巨大な宇宙船である。

 その船は巨体に見合ったエネルギー貯蔵量を誇っていたのだが、コウを呼び出す為にそのほとんどを消費してしまった。


「……マジで? 初耳なんだけど」

「言ってませんでしたからね。それよりもエネルギーが回復仕切っていない現状を踏まえ、レーヴェと私は本格的な戦闘に参加する事が出来ません」

「じゃあどうするんだ?」

「スピルリナからシオン王女の近衛隊を借りられる事となりました」

「オーラ直轄の奴らか」


 決して数は多くは無いが質はかなり高い。

 構成は大型戦艦一隻に中型戦艦数隻、そして小型戦艦が数十隻。

 艦載機としてはスピラリスも搭載している。


「別に戦力は必要無いんだけどな……」

「まぁまぁ。向こうからも兵を出さないと示しが付かないといった所だと思いますし、邪魔であれば引かせれば良いだけです」


 大半は本星の防衛に回されているが故に、こうして攻撃に向かわせられる戦力は少ない。

 そもそも攻勢に出られないという大きな穴を埋めるのがコウという存在ではあるのだが。


「まぁ~状況を考えれば中々の物か、これでも」

「ですです」


 更に言うなら、二人の本命はあくまでも小型戦艦そのもの。

 その他の船や人員を求めてはいなかった。


「船団の指揮権は最上位に近い物が渡されていますが、どうしますか?」

「別に部隊を指揮するつもりは無いぞ? いつも通り全部アオに任せる」

「了解しました。……それとスピルリナのシオン王女殿下が面会を求めていますが、どうしますか?」

「面倒。無視で良いだろ」

「了解です」





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