第4話 エネルギー不足






 コウはオーラの話を聞いたが、返答は保留としている。

 スピルリナもそれは想定内の事らしく、レーヴェはスムーズな流れで軍港に待機する事となった。


「金の獅子が吠え雷鳴が齎され、永劫の存在により我々は救われる……ねぇ」


 それはスピルリナに伝わる伝説。


 オーラはコウの事を指し示していると言うが、レーヴェの主がそれを現実の物とするつもりは今の所無い。

 ノイント・エンデのコックピットに座った彼は全く別の事を考えていた。


「……なぁ」

「どうかしましたか?」

「俺達はゲーム時代から未来予測能力を持ってるよな」

「えぇ。これまでの戦闘でも何度か使用していましたね」


 コウは未来予測能力を持っている。

 それはほぼ完全に機械化したゲーム内アバターの思考加速能力と、彼自身の才能が合わさり開花した技だ。


 どちらか単独では使用する事が出来ず、アルカディアでもコウ以外のプレイヤーが使用したという話も聞いた事が無い。


「運営からはシステムに過負荷がかかるからあまり使わないでくれ、と言われていましたが……それがどうしたんですか?」

「いや、ただの確認だよ」


 だが制約はそれだけでは無い。

 見える未来はあくまでも予測であり、実際の確定した未来とは異なった結果になる事も少なくないのだ。


 故に堅実かつワンパターンな行動の相手には有効な一方、トリッキーな相手には効きにくいという性質に落ち着いている。


「それを活用する為に、コウは私達を作ったのですよね?」

「あぁ。だがここは現実だろう? 処理はどこでやってるんだ……?」


 思い立ったが吉日とばかりに、コウは戦闘シミュレーターを起動した。

 実際に能力を使い確かめる為である。

 だが彼の身体はそれが出来ない程の限界を迎えていた。


「ッ! やっぱり、アルカディアの時以上に……未来が、見えやがる…………!!」

「コウ!?」


 本来は一分以上先の未来を見る事は出来ないはずなのに、今のコウはそれ以上先の未来が見えている。

 そしてそれを利用する為にも頭を動かす必要はあるのだ。


「どうしたんですか! コウ!!」

「クッソ、なんでこんな使いにくくなってんだよ……!!」

「一体何が……いえ今は考察よりも行動が先、プレンティはコックピットからコウを救出! すぐに医務室へ送りなさい!!」


 腹の虫が鳴ると同時にコウの身体から力が抜け始める。

 徐々に遠のく意識とアイオーンの声で、彼は自身の意識が失われる事を悟った。

 そしてその感覚が現実である事を改めて示し、能力を使うのに何が必要かを示しているのだろう。






 ――――――――――――――――――――






「……知ってる天井だ」


 レーヴェの艦内は非常に広い。

 だが部屋はある程度のブロックで分けられ構成されており、コウが目覚めた場所もその一つである。


『オハヨウゴザイマス、マスター!』

「ナンバー821……医務室か」

『ハイ、ヤブイデス。ゴキゲンハイカガデスカ?』

「まぁまぁだな」


 診察台から身体を起こしたコウを出迎えるのはプレンティ。

 支えられている青年が設計した艦内用ロボットであり、アイオーンにとっては妹や弟のような存在だ


 高さは腰の下程度、容姿と行動は極めてコミカルに設定されている。

 彼らはレーヴェ全体を管理する為に大量に生産されており、その数が故にアイオーンも直接操作せず簡易AIを介して管理していた。


 容姿に見合ったコミカルな性格をしているが、それは本来想定した動作では無い。

 なら何故そうなったのかと聞かれれば、作り手であるコウにも姉に当たるアイオーンにもその理由を知らないでいる。


 それでもコウの命令は絶対遵守する事から、レーヴェにはプレンティが必要不可欠となっているのだ。


『コチラ、シンサツデータニナリマス』

「お、サンキュー」

『イエイエー』


 プレンティは手首をクルクルと回しながら紙を差し出す。

 可愛らしい落書きがされた紙には、体内に貯蓄されたエネルギーが著しく低下している事が示されている。


 他にも様々な記載はあるが、内容は概ねコウの予想通りであった。


「……やっぱ原因はこんな所か」

『ハイ。“栄養剤”ハトウヨシテオキマシタガ、キチントショクジモトッテクダサイネ』

「へいへい。名前の癖に働き者なこって……」

『ア、サブマスガキマシタヨ』


 プレンティの言うサブマスとはアイオーンの事である。

 そして肉体を持たないアイオーンの登場方法と言えば――


「コウ!!」

「うぉっ!?」


 ――音も無く視界外から近づく事である。


「何だよいきなり!」

「だって……だって、もう起きないんじゃないかって…………」


 涙目でコウに抱きつくアイオーンは肉体を持たない。

 だが疑似感覚を送りつける事で、その感覚を再現する事は可能であった。


「こんにゃろぉ、無駄に高度な技術使いやがって。大した事無いから心配すんなよ、データは共有してんだろ?」

「はい……」

「んじゃ行くぞ。どうせまたお客さんが来てるんだろ、もてなしてやんないとな」





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