第3話 招かれた客人






 コウは突如放り出された戦闘を無事に切り抜け、母艦であるレーヴェへと帰還した。

 だがその結果は満足行く物には程遠い。

 彼は格納庫で機体を駐機させると、早速装甲を分解し内部フレームに手を付け頭を悩ませた。


「ふーむ、ジェネレーター出力が予想以上に高くて基礎消費エネルギーが予想以上に少なかったって所か」

「パーセントで割り振っていたのが仇となりましたね」

「だな~。まぁ運動系に悪影響出て無くて良かったって所だが……まだまだ調整が必要だ」

「そもそも大型戦艦に搭載するような反物質反応炉を20m級の機体に乗せるのが無謀なのでは?」

「分かってるよ。だからこそ、やり甲斐があるってモンだろ?」


 今回の戦闘ではノイント・エンデをしばらく使用出来ない事が分かった。

 コウはまだ調整を必要とする機体に目を輝かせ、アイオーンは呆れた様子でそれを見る。


 だがその場にはもう一人の人物が居た。


「で、アンタがアオの客人?」

「はい。私はスピルリナ王国王女が近衛騎士、オーラだ」


 鎧のような宇宙服を身に纏った金髪の女性がコウに敬礼を取る。

 一方のコウは相変わらずコンソールを操作しつつも、それなりに頭は回していた。


「スピルリナって言うと……」

「さっき撃破しなかった方、追い込まれてた方です」

「あぁ、途中で逃げた奴らか」

「それはその……本当に申し訳ない」

「いや良いの良いの、どうせ居たら邪魔だったし」


 オーラとしては非常に歯痒い言葉ではあるが、それこそが先程の戦闘の全てである。

 彼女は全ての感情を抑え込むかのように深呼吸をすると、再びコウに向き直った。


「単刀直入に言う。コウ殿には我々スピルリナへと手を貸して頂きたい」

「ほぉう?」

「勿論報酬は望む物を望むだけ出す、それが国の意思だ」


 コウは今まで様々な戦場で様々な報酬の為に戦ってきたが、ここまで言われる事は滅多に無い。

 作業の手は止まった。


「……なるほど。余程切羽詰ってるみたいだし、話位は聞いてやろうじゃねぇか」

「感謝する」


 彼女が仕えるスピルリナはいくつもの星を領地として治め、周辺国とは積極的に友好関係を結んでいた。

 そうして広げた影響圏は彼らの居る場所、グリーゼ中域全体にまで広がりを見せている。


「星間国家ってやつか」

「あぁ。だが数ヶ月前、グリーゼ宙域の隣……エレボス宙域に存在するパーゲルが攻撃を開始してきた」


 それによりグリーゼ宙域は七割が陥落し、パーゲルの支配下に置かれてしまった。

 どうにかその存在を保っているスピルリナも存続が厳しい状態となっている。

 早い話が滅亡寸前らしい。


「ふーむ……機体の質だけならお前達の方が上だったと思うが、何でそこまで追い込まれてたんだ?」


 この世界での戦闘は宇宙船による艦隊戦が基本であるが、コウの乗るノイント・エンデのようなAMも多く存在し活躍している。

 だがそれ以外にも戦場に現れる驚異は存在した。


「奴らはブルームとクラヴィスの混合軍なんだ」

「クラヴィスって言うと……あぁ、あのカクカクしたヤツか」


 兎に角数を揃えれば良いという考えの下で設計されており、性能は低く目立った機能は持たない。

 だが実際に数を揃える戦略は有効で、パーゲルが勢力を維持する手助けをしている。


「そして我々の保有するAMはスピラリスと言う」

「なるほどねぇ。クラヴィスは量産特化型だが、スピラリスはバランス型って所か?」

「はい。付け加えるならパーゲルは敵との相性を数でごり押し、スピルリナは拡張兵装により敵との相性を調整する傾向にあります」


 二機の差はアイオーンの言う通りであり、クラヴィスが全機共通の見た目に対しスピラリスは所属によって見た目が違う。


 戦艦の護衛をしている機体は中型ソードと中型シールドを装備しているが、戦線へ向かう機体は大型ランスと中型ライフルを装備している。

 中距離から砲撃を担うであろう部隊はミサイルポッドを装備し、戦艦の周りを漂ってる様子をコウは見ていた。


「スピラリスは良いが、クラヴィスは美しくないよなぁ……」

「えっ、美しくない……?」

「だって角と直線ばっかでどのパーツも不細工なんだぜ?」

「不細工……?」

「量産型には量産型の美しさを出せるモンだと思うんだがなぁ……」

「量産機の美しさ……?」

「オーラ近衛兵長、そこのバカには構わず説明を続けて下さい」

「あっ、あぁ。……我々とてそれなりの戦力を持ってパーゲルを幾度も撃退してきたのだが、今回はレノプシスというブルームの対処に手を焼いている」

「あのイカ、そんな名前なのか」

「敵から傍受した通信でも何度か呼ばれていましたね」


 ブルームはパーゲルのスポンサーになっている人物の手下。

 そして今回現れたのはレノプシスという種類であった。


「性質は先の戦闘で見ての通り、程々に強く程々に数が多い」


 パーゲル軍は元から数が多く、スピルリナは質で圧倒し対抗していた。

 だがレノプシスの参戦は全体の質を引き上げる程の物であり、彼らが対抗出来るレベルを超えている。


「そこでコウの力を借りたいという事ですか」

「あぁ。この話に乗るも乗らないもコウ殿の自由……だが、私個人としては良い返事を期待している」





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