第2話 戦場
新たな知識を得たコウは急旋回し、後ろに付いていた敵AMを真正面に捉える。
ノイント・エンデの持つ双剣は目立った機能を持たない頑丈なだけの物だが、再び加速しすれ違いざまに双剣を振るえば敵を屠る事が出来る。
彼は片刃の剣は頭から足までを斬り裂く事もあれば、バレルロールと共に胴体を斬りつけると言った様々な動作を交え戦場を飛び回った。
「……ん?」
最初に撃破した敵機がコウの目に留まる。
そのコックピットからは脱出する人間の姿も見えるが、赤い液体にまみれ四肢があらぬ方向へと向いた人間の姿もあった。
「うへぇ、もしかしてアレはマジで死んでる……?」
「当たり前です。不本意かもしれませんが、コウは本物の戦場に居るんですよ。アルカディアとは違うのです」
「ほぉ~ん……」
普通なら大きくショックを受けてもおかしくない話だが、コウは不思議と落ち着いて受け入れる事が出来ている。
それにはかつて彼の居た“アルカディア"と呼ばれる場所はVRゲームの中でありながら、大軍勢が毎日のように争う非常に過酷な激戦地であった事が関わっていた。
「まぁ命の賭けられた戦いってのも一度やったしなぁ……」
「随分と軽い反応だと思いましたが、そういえばそうでしたね。それに全身義体ですし」
「そうそう。強制的な感情のコントロールは出来るんだが、何よりもだ――」
「何よりも?」
「――こうしてマジの機体の乗れてるのが楽しすぎるから、そんな事は気にならんのだよ」
彼が今まで動かしてきた機体はVRゲームの中にある物、つまりあくまでもプログラムで再現された偽りの物に過ぎなかった。
だが今こうして機体を動かしているという確かな感覚はコウの欲望を満たし、戦いへの渇望を加速させているのだ。
「まぁ~……ここから降りて戦えって状態だったらまた話は別だったかもな。俺にロボと戦場を与えたのが奴らの敗因だ」
「相変わらずのロボバカで戦闘狂ですね……」
安心したような声のアイオーンを他所に、コウは満面の笑みで機体の操縦を続ける。
多少はコックピット以外も狙うようになったが、その攻撃速度に衰えは無い。
だが敵による彼の包囲もまた変わっていなかった。
「味方から支援の申し出が来ていますが……」
「いらねぇよンなモン、精々死なないように粘ってろ!!」
「了解です」
アイオーンはコウの言葉を仲介する。
それを機に味方艦隊は撤退を開始し、全ての敵戦力がコウへ集中させられる状態となった。
『この位置関係なら俺達を囲めたはずだが、スピルリナはコイツを見捨てるらしいな。……良し、レノプシスを前面に出すぞ!!』
『『了解!!!』』
味方の撤退に合わせ敵も陣形を変化させている。
艦隊の中央に集まっていた敵の一部が両翼へと移動し、前面中央の敵密度が低下した。
「何だ、旗艦を叩いて欲しいってのか?」
普通の艦隊戦であればありえない動き。
それを行った理由はすぐにコウの前へと現れた。
『行けッ! 知能無き獣よ!!』
「あれは……イカ? 斬って良いやつ??」
「斬って良い敵です。調理方法はお好みでどうぞ」
「ほぉ、そりゃ良いな」
勢い良く剣を振るえば“イカ”は次々と斬り裂かれ、宇宙にその臓物を散らしていく。
一見順調に進んでいるように見える攻撃だが、そのスピードはAMを相手にする時より僅かに衰えている。
「うへぇ、気持ちワリィ~……ってか地味に手強いな」
「彼らが戦況を悪化させている要因ですからね。それよりも戦闘に集中して下さい」
「へいへーい」
敵がレノプシスと呼ぶイカのような生物の行動、それは極めて単調かつ直線的な突撃を繰り返している。
それらは容易に回避出来る程度だが、複数の個体によって様々な方向から繰り出されるならば侮る事は出来ない。
「そぉーら! 金属の塊でも食ってるんだな!!」
ノイント・エンデは撃破した敵機を掴み投げつける。
対するレノプシスは触腕でそれを捕らえ、注文通りの行動を取った。
「マジで食うのか……」
「あくまで破壊行為として、ですがね」
「なるほどね。でもそれなら俺達だって負けないよな?」
「はい」
コウは次々と剣を振るい、迫りくるレノプシスを食い荒らす。
その勢いは残存戦力が半数程度になろうとも変化が無い。
『指揮官殿、このままでは……』
『えぇい分かっている! 全軍、この場は撤退だ!!』
『『『りょっ、了解!!!』』』
敵軍は素早く撤退を開始。
コウはそれを追わず、双剣を翼に収めた。
「ふぅ、ようやく終わったか。俺達も帰るとしよう」
「了解です」
敵機の残骸で作られた瓦礫の隙間を縫うように移動し赤い軌跡を残す。
その先にあるのは金ラインの走る巨大な宇宙船、レーヴェである。
「……が、一つよろしいでしょうか」
「ん? どったの」
「失礼ながら、コウの許可無く客人を招いています。出来れば彼女の話を聞いて頂けないでしょうか」
「珍しいな。だがお前のチェックを通過出来るって事は、害意は無いんだろうな?」
「勿論です」
「オーケー。なら話位は聞いてやるとしよう」
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