第1話 主の目覚め






 青年の目覚めは最悪なモノであった。


「うっせぇなぁ……」


 彼は鳴り響く警報、そしてガラスの割れるような甲高い音で目を覚ました。

 身体を起こし目に入るのは電源の切れたモニター、そして各種操作パネルと二本の操縦桿。


「……ん? んん~?? ここってコックピットの中じゃねぇか!?」


 コックピット自体は見慣れた場所だが、その感触は慣れない程に現実感がある。

 困惑する青年に対し、彼の相棒は落ち着いた調子で声をかけた。


「おはようございます、コウ」

「アオ……だよな?」

「はい。コウのパートナーAI、アイオーンですよ。お加減は如何ですか?」


 コウの視界に姿を現した金髪の少女、アイオーンはプログラム上の存在。

 物理的な体は持たず彼の視界に存在しているのみだが、それを驚く人物はこの場に居ない。


「体調は大丈夫何だけどよ、その……俺はまだ寝てんのか?」

「いえ、起きています。今は夢ではありません」

「……マジか!!」


 コウが咄嗟に抓った頬はしっかりと痛みを脳に伝えた。

 意識や記憶の混濁も無く、彼は直前まで自分がどこで何をしていたのかという記憶もある。


「最後に居たのはマシンラボルームだったはずだが……一体、何がどうなんてるんだ?」


 そうした自覚と現実味の無い現状の差異、それはコウに大きな困惑を与えた。

 だが状況は追い打ちをかける。

 彼と共に宇宙へ放り出されたノイント・エンデという機体、その近くで戦闘が起きているらしい。

 各種警報装置が視界の端に通知上げているのだ。


「ったく、人が頭を回してる時に……面倒だなこの野郎!」

「申し訳ありません。事情は後で説明するので、今は目の前の敵に集中して下さい」


 モニターが点灯すると、そこには星の煌めく宇宙を映し出された。

 だが戦闘による物であろう閃光も映し出されている。


「……ッチ、まぁ良い。案外願ったり叶ったりな状況だからな」

「ノイント・エンデは建造したばかりで戦闘データが一切ありませんからね」

「そーゆーこと」


 コウは二本の操縦桿を左右の手で握り込み、静かに前を見据え息を吸い込む。


「ノイント・エンデ、出撃する!!」


 その言葉と同時にフットペダルを勢いよく踏み込む。

 大きく広げた金属の翼は機体を加速させ、戦場への距離を大きく近付けた。


「索敵はどうだ?」

「既に終わっています」


 閃光を作り出していたのは二つの艦隊。

 それぞれに対してコンテナとタグが表示されているが、コウにそれらの違いは理解出来ない。


「で、俺はどっちを叩けば良いんだ?」

「二度目になりますが事情説明は後でします。コンテナの識別に従って下さい」

「オーライ」


 アイオーンの操作で半分のコンテナが消え、赤い敵コンテナだけが残された。

 コウが取るべき行動はそれを叩く事である。


「刺激的な試し乗りと行こうか!!」


 ノイント・エンデは腕を戦場へ向け、トリガーを引く。

 だがコウの望んだ結果にはならない。


「エネルギー管理系統に異常発生、兵装のほとんどが使用出来ません」

「マジか……!」


 コウは急いでモニターを操作し、原因が高すぎるジェネレーター出力にある事を把握した。

 だがシステムを書き換え修正するには時間が足りない。


「アオ、今使えるのは何だ?」

「ノイン・シュヴェルトは使用可能です」

「オーライ。エネルギー武器ばっかじゃなくて良かったぜ!!」


 翼から分離した双剣を構え加速する。

 敵の目視距離に入ってもコウはフットペダルを踏み、加速を続けた。


『何だあの赤い奴!?』

『とんだ目立ちたがりが! 死にたいのか!!』

『だったら俺がやってやるよ!!!』

「そう簡単に死なないんだな~これが!」


 最前線に飛び込んだノイント・エンデへと二体のロボットが近付く。

 彼らは何かの攻撃を仕掛けようとしたようだが、何をする間も無く双剣の餌食となり真っ二つに切断された。


 その様子にはコンテナの付いていない機体……つまり味方機も驚愕しているらしく、戦線は一時的な混乱状態へと陥っている。


『なっ、何だと!?』

『味方がやられただろ!? クッ、囲んで叩くぞ!!』

『『『了解!!』』』

「ふむ~……まぁ固まってくれるなら、それに越した事は無いよな」


 コウは敵に背を向けて移動を開始した。

 その速度は戦線へ切り込んだ時以上の物であり、追跡を開始した敵機を一切寄せ付けない程である。


『何だあのアームド・マシンは!』

『早すぎる……ッ!!』

「アオ、機体の調子はどうだ?」

「ヒッグス・スラスターのエネルギー消費は想定内、可動は概ね問題無いかと」

「武器と別系統のシステムにしてて良かったな。……だがアームド・マシンって何だ?」

「この世界におけるロボットの総称です。通称“AM"と呼ばれているそうですよ」

「なるほど。じゃあノイント・エンデもAMと名乗っておくか」





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