永劫の獅子は美味いメシを求めて宇宙を彷徨う

鳥皿鳥助

プロローグ 戦場に現れた金の獅子






「聞いたか? 金獅子の噂」

「あぁ。本星の方でかなり暴れてるらしいな」


 そこはスピルリナの食料生産惑星、アエラスとオセアンの近くにある防衛拠点。

 敵国であるパーゲルとは本星を挟んだ反対側にある事から、襲撃を受ける事は少ない場所である。


 そうした性質を持つが故に兵士の危機感も低かった。


「なーんでこんな誰も居ないような場所、守らなきゃならんのだろうなぁ……」

「それが仕事だからな。仕事……だが、一度位は生で金獅子を見てみたいモンだよ」

「だな。まぁウチみたいな所には来ないと思うが……」

「来たぞ!!」

「は? だから金獅子は――」

「――敵襲だ!!」


 危機感は低くとも練度は高い。


 敵軍の艦隊を発見した彼らは即座に本星へと連絡し、防衛線を構築し籠城戦を開始。

 いくらかの犠牲を出しながらも、拠点を死守し数日が経過した。


「クッ……本星からの援軍はいつになったら来るんだ!!」

「パーゲルを追い返すのにかなり兵を使ってるとかって話だし、しばらく来ないだろうさ!」


 戦況はあまり芳しくない。

 防衛設備のいくつかが破壊され、数度の突撃によりアームド・マシンは大半を喪失。


 各種修理部品や食料等の物資も底を付きかけている。


『スピルリナ軍兵士の皆様こんにちは。突然ですが、識別信号を隠していたりどこかに潜入している者は居ませんか?』

「この声、援軍か!?」

「音声通信は安定している為、割り込みでは無いかと」

「……なら!」


 スピーカー越しの声は感情を感じさせないが、彼らに確固たる安心感を与えた。

 そこからの判断は早い物である。


「我々は一丸となってパーゲル軍に対抗している! 早い援護を頼むッ!!」

『オーラァーイ! 素早い一発、へいお待ちィ!!』

「なっ、何んだ!?」


 彼らは声が変わった事にも驚かされたが、それよりも驚くべき事がある。

 巨大なレーザーが敵を焼き払い、目の前を切り開いたのだ。


「あっ、あれは……!」


 誰かが遠くの方に光る点を見つけた。

 拡大表示したそこに映るのは金色の巨大な宇宙船、レーヴェである。


「金獅子だ! 金獅子が援護に来てくれたぞ!!」


 観測手の知らせはすぐに拠点全体へと伝わり、味方兵を浮足立たせた。

 だがその足をしっかりと抑え、状況を維持するのが彼ら防衛隊の役目なのだ。


『我々は既にシュトローム……黒色のアームド・マシンを先行させており、もう間もなく到着します。クラヴィスとは見た目と識別信号が違うので分かると思いますが、一応誤射にはお気をつけて』

「「「了解!!」」」

『良い返事です』


 通信で教えられた黒い機体、シュトロームは数十秒で彼らの前に姿を現した。

 そしてたった十数分暴れただけで戦場の様子を大きく変えた。


 味方の残骸だけが残っていた場所に一つ、また一つとスクラップの山を作り上げたのだ。

 勿論それらは全て敵機の物である。 


「凄い……」

「関心してる場合か! 残骸を迎撃するぞ!!」

「りょっ、了解!!」


 防衛隊の彼らは国を護る為に戦わなければならない。

 それが国に仕える者の責務であり、自分たちの命に繋がるからだ。


「……だが彼は、何の為に戦っているんだ?」


 金獅子は確かに呼び出され、概ね伝承通りに彼らを救った。


 だが防衛隊隊長の聞いた話によると、金獅子は傭兵であり王女と契約を結んで戦っているに過ぎない。

 であるならばここまでの戦闘を行う必要は無いはずなのに、金獅子と呼ばれる人物がそれを行う理由が彼には分からなかったのである。


『飯の種は返して貰うぜ!!』

「……何か凄く俗物的な理由で戦っている気がしたが、きっと気の所為だろう」

「えっ、隊長!? 今飯の為にって……」

「アレは敵の声だ、良いな? そういう事にしとくぞー」

「「「りょ、了解……」」」


 彼らの疑問に対する答え、それは金色のラインが走った巨大な宇宙船と共に訪れた。


「拠点上部の宇宙船からアームド・マシン投下を確認しましたが、アレは……」

「アレこそが金獅子、レーヴェだ」


 投下された白い機体は物資を拠点へ運び込み、同時に修復作業も行っている。

 一方の黒い機体……シュトロームは単機で戦場を激変させていた。


「まるで動きが読めないな」

「ですね」


 シュトロームの動きは決して素早い物では無い。

 だがその動きは不規則であり、次の行動は本人にしか把握出来ない程である。


「弾を置いている……?」

「いやいや、流石にそれは無いでしょう。もし出来るなら未来でも見えてるって事になりますよ?」


 全ての攻撃は難なく回避し、手痛いカウンターをお見舞いする。

 銃口が向く先は敵が回避する先だ。


「まさか、な……」





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