【創作】水たまり
雨が止んだ。
あんなに降っていたのに、いつの間にか綺麗な青空になっていた。
3号館の4階にある渡り廊下に設置された机で本を読みながら、外の景色を見る。
学生達がそれぞれ次の授業を受けるために、建物を移動している。
ふと一人で歩いている学生が目に留まった。
言っちゃ悪いが友達がいなさそうな暗そうな男。
歩きスマホをしながら歩いている。
上から見ると、大きな水たまりがあるのが見える。
男はスマホに夢中なのか、そのまま水たまりへと一直線に向かっていく。
(あーあ、歩きスマホなんてしてるから)
男が水たまりに足を踏み入れそうになった瞬間、水たまりに気付いたのか、大きく跳ね上がる。
そして、それから上下左右と辺りをキョロキョロと見渡して、逃げるように去っていく。
上から見たその光景があまりにも滑稽だったので、思わず笑いそうになる。
しばらくすると下を俯きながら歩く、地味そうな女の子が歩いてきた。
女の子もその水たまりの手前で存在に気付いたのか、ビクッと揺れる。
先ほどの男と同じように辺りを窺っている。
(見られてますよー)
それから何人もの学生が、その水たまりの手前で跳ね上がるのだから、ついつい気になってしまう。
(歩いてくる角度的に、水たまりの存在に気付けないようになっているのかな)
気になり、下まで降りて、今までの人達が来た方向から自分も歩いてみる。
大きな水たまりは普通に見えた。
(なんだ、みんなぼぉっとしていただけか)
つまんないな、思いつつ水たまりに近付く。
大きな水たまりで、鏡のように綺麗に反射している。
晴れた青空、雲、高い建物。
――女。女が屋上から降ってきた。水たまり越しに目が合う。笑っている。
とてつもない速度で女は地面に近付き、そしてバシャンッ!と水たまりに激突する。
大きく後ろに仰け反る。女が降ってきた。飛び降り自殺だ。
そう思ったが、女の姿は目の前にはなかった。
地面には水面が揺れていない大きな水たまりだけがあった。
思わず辺りをキョロキョロと見渡す。誰も女が落ちてきたことを知らないみたいに素通りしていく。
屋上を見上げても、誰もいない。
――みんな、これを見たのか。
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