第22話 二兎追うものは一兎も得ず

 えー皆様、異世界ニュースのお時間です。


 某異世界、某国、某街付近にある森林の中で二日間放置されていた男性の戦士『銅殻どうから紗世さよなら』(18)の首無し遺体が、今日街の捜索隊の手によって家族の元に無言の帰宅を果たしました。


 事件の全容が明らかになったのは、友人だけが早々に街に戻り『銅殻紗世楢』が次の日になっても帰宅しない事を不審に思った家族が、友人を問いただした所「自分だけ先に逃げ出した」と、証言した為です。



 その友人の話によりますと、『銅殻紗世楢』は街から『たでの葉の採取』の依頼を受けて友人と街付近の森林に入った所、木の陰から兎らしき生物が姿を現し『銅殻紗世楢』に接近。この時に、危険を感じた友人は『銅殻紗世楢』に逃げ出す事を提案、しかし『銅殻紗世楢』は提案を聞き入れず兎らしき生き物と戦闘を開始、すると『銅殻紗世楢』の後方からもう一匹、兎らしき生き物が現れた為、友人はひとりで逃走、『銅殻紗世楢』は帰らぬ人となりました。




『銅殻紗世楢』の母親


「確かに、息子は少し無鉄砲な所はあったかと思います……。あの様な仕事をしていれば危険もつきものでしょう。でも……、まさか、街の近くの森林で亡くなるなんて! 息子を置き去りにした友人も許すことは出来ません!!」



『銅殻紗世楢』の友人

とも深須みすてる』さん


「俺は……俺は、あいつはヤバイから一緒に逃げようと言ったんだ! あの兎は……あのもふもふは、兎と似た何かだった!! あれと戦うなんてどうかしてる! なのに、あいつは前後から挟み撃ちにされたってのに、戦いを挑みやがった! 無鉄砲にも程がある!! みんな俺の事をどうこう言うけど、死んじまったら元も子も無えじゃねえか! 逃げて何が悪い!!」





 街の近くの森林に生息する兎のような生き物

宇佐義うさぎ地我有ちがう』さん


「チュ? チュチュッ、チュー! チューチュー、チュチュチュッ、チュー! チュチューチュチュー!! チューチュチュー、チュッチュッチュッチュー! え? 人語? 素ですらすらと話せるけど? 逆に。は? 何であの戦士を天国に送ったかって? それ本気で聞いてンすか? マジウケるんですけど。だってあたし、軽く殺されかけたンですけど? あいつに。そしたらあたしだって死にたくないから、本気でいくじゃん? 逆にー。何の不思議があんの?」




 ……………………兎のような生き物は、兎ではなかったようですね。

 皆さまも森林に入るときは、もふもふに充分注意してくださいね。



 異世界ニュースのお時間でした。




 続いて、もふもふ異世界、兎国のアミューズメントパーク、『もふぽみ館』で行われた一大イベント、『もふもふ大行進』のニュースです……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る