桃色カプセル
最近話題になっている将来の伴侶を未来から一分間だけ召喚できるガチャというものを、物の試しに回してみた。
出てきたカプセルは桃色だった、カプセルの色によってレア度が異なるらしいのだが、桃色は平均よりも少し低いランクであるらしい。
自分の嫁が平均以下とか、正直言ってあまり信じられない。
とはいえ、伴侶がいない場合は石が出てくるらしいのでひょっとしたらそちらなのかもしれない。
石が出てくる場合は回した人間が伴侶を欲していれば欲しているほどレア度の高いものが出やすいという話なので、それを鑑みると石である可能性のほうが高い。
自室でカプセルを開けて説明書通りに床に投げつける。
複雑な魔法陣が一瞬で展開され、ポンと軽い音と共に何かが召喚された。
「…………」
「……あ?」
召喚されたのは石ではなく、人間の女だった。
丈の長いぶかぶかのパーカーを着ていて、髪を後ろの方で適当に括ってまとめている。
顔は平均、ブスではないが美人でもない。
あと雰囲気がなんかダサい、具体的になにがとはいえないのだが、とにかくダサい。
はっきり言ってしまうと、たしかにランクは低そうだった。
ただ肉付きは良さそうだし、あらわになった脚も白く柔らかそうだ。
そこにいくつも散る赤色にずいぶんがっつかれているんだな、と人ごとのように思ったあと、そのさらに上の方にちらりと見えたそれに一瞬だけ思考が停止した。
女の方は状況が理解できたようで、小さく『そういうことかチクショウ』とかなんとか呟いていたが、なにやら覚悟を決めたような顔で呟いた。
「よし。運命を変えよう」
「へえ?」
「えっと…………実は自分とアンタ、色々あっていわゆる望んでいない結婚をせざるを得ない状況に陥ったんですわ。だから過去のアンタに忠告すれば今のクソみたいな状況が変わるかも、って思いまして。時間がないから手短に伝える。自分の顔を見かけても絶対に関わるな、互いにクソみたいな酷い目に合うから。アンタさえ関わってこなければそれで全部解決する。だからよろしく」
「へえ?」
にこ、と笑って目線を合わせると女は目に見えてうろたえた。
「と、とにかくそういうわけだから」
「そんな下手っぴな嘘が通用するとでも?」
女を押し倒す、抵抗されると面倒なので片手で女の手を掴み上げてから、ぶかぶかのパーカーの裾をまくり上げた。
「こんなモン入れられるほど、お前はオレに愛されてるわけだ」
太腿の付け根近くに入れられた自分のそれと全く同じ月の刺青を指先でなぞってやると、女の身体が大げさに震えた。
「い、いやそれはそういうんじゃ」
涙目でプルプル震えながら言われてもまるで説得力がない。
なんだ案外可愛げがあるじゃん、と思っていたら、ぽん、という音と共に女の姿が消えた。
時間切れになってしまったらしい。
小さく舌打ちして、床に転がっている桃色のカプセルを眺める。
「どこで会えんのかね、あんなのと」
まあどっかしらで出会えるんだし焦らず探すか。
それにしても、まるで心当たりがない。
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