将来の伴侶か希少石が出るガチャ(一回三万円)
朝霧
金色カプセル
将来の伴侶を未来から一分間だけ召喚できるガチャが発明されたのがいつ頃なのかは知らない。
ただ最近の話ではあるようだ。
世間では結構な騒ぎになっていたが、将来の伴侶なんて自分には全く縁がない自分には全く関係がない話だった。
しかし、つい最近発見されたとあるバグによって注目せざるを得なくなったのである。
このガチャは、ガチャを回した人間の、未来に存在する伴侶を一時的に召喚する術式が込められている。
では、伴侶がいない場合はどうなるのか。
バグるのである。
そしてバグった結果、どういうわけか希少石が出てくるのだ。
しかも将来の伴侶の場合は一時的な召喚なので1分過ぎれば自動的に送還されるが、希少石が出た場合は送還されずに手元に残る。
どうしてこんな事態になったのかは開発側にもよくわかっていないらしい。
しかし原因はどうでもいい、とにかく将来の伴侶さえいなければ希少石がゲットできるのである。
報告によるとフォスフォフィライトやアレキサンドライト、エイトリータやマスグラバイトなんかも出たらしい。
あのマスグラが出たという報告を聞いてしまったら、試さない理由はない。
といっても噂によると将来の伴侶を欲している人間ほどより希少な石が出るらしいので、私程度じゃそこまでの石は出てこないだろう。
実際結婚に全く興味のない人が運試しで引いたらそれほど綺麗じゃないオパールが出てきたらしいし。
なので私がやってもきっとたいしたものは出てこないだろう。
それでも万が一ということもあるし、三万円で希少石が手に入るのであれば是非試してみたい。
というわけで思い立ったら即実行、自分はガチャが引けるセンターに急いだのだった。
駅のATMで三万円をおろしてから、センターに向かう。
センターは将来の伴侶に不安と期待を抱いているような表情の若者がたくさんいたが、自分のお仲間っぽいのも何人かいた。
二十分ほど待っていたら順番が来たので、受付さんに三万円とガチャを回す用のコインを交換してもらう。
受付さんから簡単な説明を受けたあと、ガチャを回す。
さあ、運試しのお時間だ。
せめて三万円程度の価値がある石が来い、できればマスグラ来い……!!
ガチャッと出てきたカプセルは、金色だった。
「おめでとうございます!」
受付さんがきゃあ、と言った後歓声を上げた。
どういうこっちゃと話を聞いてみると、カプセルの色によって中身のレア度が異なっているらしく、金色は最上から一つ下のランクであるようだ。
受付さんはにっこにこの笑顔でお幸せに、とか言っている。
自分はそれを適当に流しつつ、そそくさと家に帰った。
自分に伴侶なんてできるわけがない。
それなのに最高の一つ下のランクが出た、ということは……かなりの希少石である可能性が非常に高い。
なにが出る? マスグラか? ユークレースか? ハックマか? ピジョンブラッドとか出てきてもすごく嬉しい。
小さい希少石が出てくることもあればそこまで希少ではないものの純粋にハイクオリティで大きめの石が出てくることもあるらしい。
自分ちに帰ったあと、わくわくしながらカプセルを開ける。
さあ、なにが出る。どちらにせよ三万円の元は確実に取れたはず。
説明書通りカプセルを開けて床に投げつけると複雑な魔法陣が一瞬で展開される。
そして、ポンと軽い音と共に何かが召喚された。
「は?」
「は?」
召喚されたのはニンゲンだった。
ニンゲンの、男。
しかも半裸。
オカシイ、なんでヒトが出る? 自分は石ガチャを回したはずだが何故ヒトが出てくる。
意味不明。
しかし召喚された男の方はすぐに状況を把握したようで、やけに色っぽい顔で「ああ」と口元を笑みの形に歪ませた。
こちらの顔を見てクスクス笑い始めた男に、ようやく事態の把握が追いついた。
「ヴァアアアアアアアア!!? ハズレ!!!!!!??? ナンデ!!?」
希少石確定ガチャのつもりだったが自分が回したガチャはそういえば元々将来の伴侶を一時的に召喚するガチャだった。
つまり、石ではなく伴侶の方を引いてしまったということである。
そんな馬鹿な。
「なにやってんの自分!! なにやってんの自分!!!??」
ご近所迷惑なんて一切考えずにシャウトする。
くそう、三万円がゴミと化した!!
未来の自分、お前のせいだ!!
なんで結婚なんてしてるんだようと頭を抱えていたら、「なあ」と声をかけられた。
「やっぱお前、ぶさいくだな。マジでダッセェ」
推定将来の伴侶(仮)が半笑いでそんなことを言ってきた。
「うぐぐ……ダセェと思ってんなら自分なんかと結婚せんでくだされ、いやマジで。どこのどなたか存じませんが貴殿のおかげで自分の三万円がパア! になったのですが??? つーか自分があんたみたいな男と結婚してるとかあり得んし、マジもんのバグか??????」
最高の一個下の金色カプセルから出てきたとあって、男はずいぶん綺麗な見た目をしていた。
性格は悪そうだが。
年齢は三十代かそれよりも少し若いくらいだろうか、あらわになっている腹筋は当然のようにバキバキに割れているし、胸筋もやばそう。
というか今更のように気付いたのだけど、左胸の方に月らしきデザインの刺青が。
え。ひょっとしてカタギではない?
いや、さすがにそれは偏見か?
なんて思っていたら男はニヤニヤ笑っている。
「へえ。お前まだオレのこと知らねーんだ」
「全く存じあげませんわ」
「ふーん。ま、別にいいけど……にしても本当にダッセェなあ、ちっこいし身体も貧相」
馬鹿にするような顔で笑われた。
「うぎぎ……くそう……三万円を無駄にしたダメージが深い……でもまあ、ガチャでドブるなんてよくあることですし?? まあいいということにしましょう。……どこのどなたか存じませんが、自分がアンタみたいな男と結婚してるとかありえないですし、今後関わりができたとしてもフラグは速攻で叩き折ってやりますわ」
「好きなだけもがけばいいよ。頑張って逃げな」
男はニコニコと笑いながらそう言ったあと、私の顎を片手で掴んでぐい、と上を向かせた。
「ま、絶対に逃してやんねーけどな」
甘ったるく、どろりと粘性のある液体のような声色でそう言った男はもう片方の手の人差し指で私の唇をゆっくりとなぞる。
そして、ポン、と軽い音と共に消えた。
時間切れになったらしい。
足腰の力が入らなくなって、自分は思わずしゃがみ込んだ。
床に転がる金色のカプセルの輝きが、やけに虚しかった。
しかしやっぱりあんなのと結婚するとかマジであり得ないので、なんとか頑張って回避したいと思う。
……そもそも自分はあんな男と一体どこで知り合うのだろうか。
どうしよう、心当たりが一切ない。
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