第311話
〜フォッケトシア付近にて〜
まさに青天の霹靂と呼ぶべきだろうか? 突如として天に現れた一匹の龍は文字通りの雷をこの街に落とした!
「あれはなんなんです!」
「こんなときに! どういうことなんだ? まだ約束の期限は来ていないんだぞ?」
龍との約束まで、まだあと八日もある。それなのに、もう人間を滅ぼそうというのか? それはちょっとせっかちすぎるんじゃないのか?
ともかく、むざむざとここでやられるわけにはいかないな。見るからに
強大な龍だけど、こちらには人間が大勢いるのだから、負けないはず。僕たちは、何度も龍に遭遇している。シドッグのときは、シルバータさんのおかげといいつつも、龍を打ち倒しているんだ! 人間だって龍に勝てる!
……しかし、龍の力はやはり生半可なものではなかった。
「キシャァァァァァァ!!」
「ズドドドドド!」
「ドゴォォォン!」
龍が一たび咆哮するだけで、街の至る所に雷が落ちる! もうフォッケトシアは大混乱に陥っている。もはや戦うどころではない。すでに敗北寸前のこの状況のなか、一人空へと舞い上がる小さい影があった。
「ムーアくんだ! ムーアくんが行った!」
「大丈夫なのか!? 一人で突っ込んでいって勝てるような相手じゃないだろう!」
「しかし、このままやられるわけにもいかない。今一番可能性があるのは彼だろう」
「大丈夫です。余もサポートはしましょう」
魔王先生はいつのまにか僕の隣にいて、空のムーアくんを見つめている。空高く飛んでいるあの龍に攻撃を届かせられるのは、今のところムーアくんしかいないのだから、僕たちは彼に頼るしかない。
ムーアくんが一直線に舞い上がっていけば、龍も彼に気づく。いままでずっと無差別攻撃をしていた照準を彼狙いに切りかえた。
「グォォォォ!!」
「シュン! シュン!」
雷撃が物凄い速さでムーアくんに襲いかかる。しかし、ムーアくんの魔法の発動はもっと速い! 彼の体は宙に浮いたままひるがえり、簡単に攻撃をかわしてしまう。
彼を見た龍はムッとして追加攻撃を仕掛けるが、それも当たらない。たちまちムーアくんは龍の目の前までたどり着いた。
「はぁぁぁ!」
至近距離で発動した魔法は、青い炎を帯びて、龍の巨大な体を飲み込もうとする! さすがに人間からそんな攻撃が来るとは思っていなかったのだろうか、龍は明らかにひるんだ。もちろん至近距離で攻撃を避けられるはずもなく、龍は全身を炎に包まれてしまう。
「おお! やったか!?」
「いや、龍はそんな脆くない。まだだよ」
龍がそんな簡単に倒せてしまうのならば、僕たちは最初から半ば脅迫のようなこの試練を受けてなんかいない。
案の定、龍は倒れていなかった。それなりのダメージにはなったかもしれないが、かえって相手を本気にしてしまったかもしれない。向こうは天災にも近いような強大な存在であるのだから、こちらもまたそれくらいに強烈なパワーを出さなければ龍を葬り去ることなんてできないだろう。
それをムーアくん自身も分かっていたらしく、彼は少しも焦ってはいなかった。一旦下まで戻ってくると、今度は魔法陣を展開した。
空から降り注ぐ龍の攻撃に備える防御魔法陣に見える。その魔法陣から展開されたのは、巨大な光の盾だ。こんな場面じゃなければその美しさに見惚れるところだけど、今肝心なのはその固さのほう。
龍も受けて立とうと、わざわざ他の場所を狙うことなく、光の盾のど真ん中を目掛けて渾身の雷撃を振り下ろした!
「おいおい! 耐えられるのか!?」
「みなさん! ミスキンを信じてください!」
魔王先生はそう言いながら、天に両手を掲げ、魔力を光の盾に送った。光の盾は一層に輝きを増していく。そうだ……ムーアくんと魔王先生の全力が通用しなければ、もう打つ手がない。今は、彼らを信じなければ。
龍の雷撃は、見たこともないような凄まじい稲妻を振り乱して光の盾に突き刺さった! その衝撃波は下の僕たちまで届いて、周りで何人かふらついたのが分かる。
だけど、盾はまだ耐えている!
「おお! いけるぞ!」
とんでもないせめぎ合いだ! 龍の力を存分に見せつけられている。しかし、人間だって負けないんだ。少し前まで、この世界の人間たちは魔物、魔族たちとは違って魔法を使うことができなかった。だけどいまはどうだ? たとえ手助けがあるにしても、あの強大な力に立ち向かえるほどの大魔法を人間の少年が展開している! ムーアくんこそ、進歩する人類の象徴なんだ。
「ドドドドダダダダ!!」
雷は盾を容赦なく抉ろうとしてくる。
「やや! 危ないかもしれない!」
「いやいや、まだ大丈夫だ!」
ムーアくんの顔をここから見ることはできないが、かなりキツそうな雰囲気だ。魔王先生も、全力を出しっぱなしで疲れが出ている。
「はぁぁぁぁ!!」
「先生、頑張ってください!」
ムーアくんと先生の根性だろうか? 一旦盾を貫くかと思われた雷撃は少しずつ押し返され始めた。
「はぁぁぁぁぁ!!」
雷にもかき消されない彼の叫びは盾に力を与え、目の奥を刺すほどの輝きが町全体を覆った!
「ドゴォォォォン!!」
次の瞬間、何かが弾け飛ぶ音がした。……そして、もう盾も雷も消え失せている。
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