第308話

 〜エルマンテにて〜


 空から高みの見物を決め込んでいるわけにもいかないみたいだ。下の人間たちも私の存在に気づき始めている。こんなに激しい戦闘だと、うるさくて耳が死んでしまいそうだけど、戦争が終わった後で、「シルバータ大将がいたにも関わらず参戦しませんでした」なんて言われたら困るし、助けてあげよう。


 にしても、そんなに敵がエルマンテに固執するとは思わなかったな。都市としてはかなりの規模だけど、戦略的価値は他の小都市と変わらないか、劣るほどかもしれないのに。


「行きますよ!」


 うん、感度良好。今日も私の翼は私の思うままに動いてくれる。


「先手必勝だからね、はぁぁぁぁ!!」


「ズダドドドドドドドド!!!!」


 門の外にいる敵軍に一発お見舞いした。突然空から降ってきた攻撃に混乱していたから、出鼻の一発としては十分すぎるくらいに効果アリね。


 うーん、驚かせるくらいの効果はあったかな? 


 翼を無くして落ちていく自分の体に再び刃の翼を復活させて、舞い上がった。


「とりあえず味方のところに行くかな」


 私は確実に味方がいるだろうエルマンテ官庁に向かった。


 十階の窓から官庁の中に入ったのだけど、そこで思い出した。


「そういえばエルマンテの官庁は首長室は下の方にあったわね」


 降りる手間を増やしてしまった。


 廊下を進みながら、窓の外をぼんやり見ているけど、街の感じは普通だ。戦争で壊れたり、燃えたりというのはあんまりないらしい。


 ……これなら立て直すのだってきっとできるはず、そんなことを考えていた矢先のことだった!


「ドゴォォォォン!!」


 突然街が光に包まれ、轟音が遅れてやって来た。そしてこの熱風。ガラスは散り散りに砕けて、その隙間から私の周りを吹き抜けていく!


「どういうこと!」


 とんでもない火力ね。魔法でないと有り得ないわ。でも一体どこの誰が? 敵軍の中にはそんな優秀な魔法使いは一人もいないはずなのに。


 魔法を放った存在は、隠れる気が微塵もないらしく、堂々と空から舞い降りてきた。


「あれは……龍じゃありませんか? 前に会ったキツネさんに雰囲気が似てる……」


 龍? それとも違う? いや、そんなことは問題じゃない。明らかに人間じゃないのが、どうしてここにやってきて、攻撃をしたんだ?


 とにもかくにも、こうしてはいられない! 早くあれを止めなければ、きっと次の攻撃を仕掛けてくるだろう。


「はぁ!」


 私は枠だけになった窓から飛び出した!



 空高くまで来ても、まだ熱い。とんでもない熱量でぶっ放したのね。街は大炎上している。まったく、シュユ侯爵が見たらなんて言うかな?


 龍?は私の下にいる。見た目は亀から龍の首が生えてる感じだ。それが空を飛んでいるから、ちょっとおかしい。


「あなた、どうしてここに来たのかしら?」


「……答える義理はない」


「ええ! 喋るの!」


 相手が獣の類だと思って適当に呼びかけたのに、まさか言葉が向こうから返ってくるとは思わず、驚いてしまった。


「貴様、馬鹿にしているのか?」


 亀も亀で、戸惑ったようにそう返してきた。


「いや……あの、ごめんなさい、あなた喋れるとは思わなかったから」


「なに? 喋れるに決まっているだろ? 我は龍なるぞ、貴様らのような劣等種とは違うのだよ」


「おや? あなた龍だったのですか」


「貴様には目がついていないのか? 我のこの体を見よ! どこからどう見ても龍そのものであろう」


「……申し訳ないけど、どこからどう見ても亀にしか見えないわね」


 こんなに巨大な体だから、きっと鏡を見たことがないんだわ。誰か気づかせてくれる人に出会えなかったのかな? 


「貴様ァ! 我を愚弄してくれたな! いいだろう、そんなに死にたいならこの街の住人より先に消し炭にしてくれるわ!」


「言ってくれますね。あなたこそ、さっきは私たち人間のことを劣等種と馬鹿にしたじゃないですか!」


「フン、それは事実であろう?」


「……分かりました。ここで決めましょう。私たちが本当に劣等種なのかどうか」


「どうやって決めるんだ?」


「今から私があなたをボコボコにします」


「……くくく、ギャハハハハハ! 何を言い出すかと思えば、貴様、何という馬鹿なのだ! 我をボコボコにする? 人間が龍に敵うわけがないだろう! 寝言は寝て……」


「ズドォォォン!」


「あなたこそ、ちょっとおしゃべりが過ぎますよ?」


 亀のくせにそこそこすばしっこいじゃない。急所を狙ったつもりなのに外されてしまったわ。


「貴様、いきなりだな。まあよい。そんなことにいちいち目くじらを立てるほど龍は器の小さい生き物じゃあない」


「その余裕がなおさら腹立っちゃいますね」


「さあ、今度は我の番だな」


「へえ、どんな攻撃を……うわっ!」


「シュドーーーン!!」


「本当にいきなり撃つんですね!」


 この亀、とんでもないスピードの魔法を撃ってきた! これは私も本気でいかないとまずいかも……。


「あなた、どこぞのキツネさんよりも強いみたいですね」


「おや……ハハハ、そうかそうか。貴様がシドッグを殺した人間か! だが奴と我を同じだと思っているのなら大間違いだ。あんな、人間相手にお遊びをしているやつなんて、我の足元にも及ばんよ。本物の龍というものを見せてやる!」

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