第303話
前回は苦戦して結局カエル馬に頼って突破したこのプレドーラ要塞を、今度は正面から崩してしまった!
「プレドーラの住民たちは?」
「みんな無事みたいですよ」
やっぱりそうだ。侵略された都市の住民だというのに家屋が壊れたり燃えたりした以外、人間はみんな何も被害を受けていない。いや、それが一番いいのに違いはないのだけど、ホルンメランといい、他のシャラパナの都市たちといい、不自然極まりない。相手はこちらの軍隊だけを綺麗に狙って攻撃しているのだ。騎士道というやつか? いや、それならば最初からこんな戦争を起こさない。他になんの目的が?
しかし、ともかくこれで都市奪還の第一段階が終わった。ここを拠点にして、周りの都市も奪還していく。
「ここから部隊を中隊単位に分ける。それぞれの目的地は決まり次第各大隊の司令官より発表する。それまで各自待機せよ」
伝令兵が何人か、街の中を馬で駆け回りながら触れて回った。今この街に着いたばかりだというのに、もう次のことを考えているのか……。
「ピオーネ、そんなに急いでるのか」
「速さが肝心ですからね。一刻も早く次の街を攻め落とさないといけない」
すぐに街の中の兵隊たちは慌ただしく動き出して、僕たちはその渦に飲み込まれそうになった。脇によけて、車の中に戻った。
僕たちはどうやら、ここからフォッケトシアに直接向かうらしい。僕たちが所属しているムーアくんの中隊は、ピオーネが率いる本隊とともに現在状況が分かっていないフォッケトシアの調査、敵がいた場合には攻撃を行うらしい。
「どうなっているのか、分かってないのは随分と恐ろしいですね」
「まだ敵に占拠されてるとわかってる方がマシかもしれませんね」
なんとも不気味なことだ。周りの街はこのプレドーラのように敵に占領されているのだから、フォッケトシアもきっと同じようになっているのだろうが、それならどうして一つだけ陥落の報が届かないのか? これだけがいまだに分かっていない。
中隊はそれぞれ別々に街の外に出撃していく。北に行く部隊、東に行く部隊、そして僕たちは西へと出発した。
「ここからフォッケトシアまでは?」
「そんなに遠くはないはずです。前に行った時も、そうだったでしょ?」
ライアンくんがそう言うように、フォッケトシアまで直行すると、時間がかからなかった。もう向こうに町は見えている。
「すごい砂煙が立ってますね、何かあったんでしょうか?」
もっと近づくと、だんだんとその砂煙の正体が分かってきた。あれは全部人だ。人が大勢激しく動き回っているから、あんなに煙が……。
「戦闘態勢に入れ! フォッケトシアの前は戦場だ!」
やっぱりここも戦闘が起きているのか……今まさに戦っているとは思わなかったけれど。
「まだ戦ってるってことは、フォッケトシアは持ちこたえていたんですよ!」
「フォッケトシアってそんなに軍事力があるのか!?」
「ないはずですよ。どうしてこんなに持ち堪えられているのでしょうか?」
「ともかく、危険ですからね。ミスキンは大丈夫でしょうか? あまり無理をしないでほしいのですけど」
やっぱりムーアくんの心配をしてるな、先生は。もういい加減いいだろうに。
到着したら、無論僕たちも参戦する。兵士たちはフォッケトシアに攻め込もうとしている敵軍をさらに外側から包囲して攻撃していく。
「おい! 外からも敵だ! 後ろに気をつけろ!」
敵兵の叫び声が地鳴りのような蹄の音に混じって聞こえてきた。奇襲としては抜群の効果を発揮したようだ。
「ここは僕たちにできることはなさそうですから、静観しておきましょう」
「そうだね……」
僕たちの軍にまだ苦戦する様子はない。それどころか、上手く挟み撃ちが決まっているので、かなり一方的に押し込んでいる。
「内側の友軍も盛り返してきたみたいですよ!」
敵軍の攻城部隊の指揮官が、少し豪華に着飾った軍馬にまたがり、大旗を掲げた兵士を連れ立って指揮を取っているのだけど、その彼が手をあげて合図を出した。どうやら撤退を示すサインらしい。それを見た敵の兵士たちは次々と離脱していく。石の鉢にすり潰されていくように、だんだん敗走していった。
僕たちの参戦が決定的だったようだ。大勢は決して、ひとまずフォッケトシアの防衛は成功だ。
さて、敵が去ったフォッケトシアまで行くと、僕たちはここで持ち堪えていた友軍に出迎えられた。彼らを率いていたのは、意外な人物だった。
「あの大将旗! どうしてここに?」
馬車から兵士くんが身を乗り出して声を出すほどに驚くべきことだ。あの旗は僕でも見たことがあるから知っている。シャラパナに二人しかいない大将の旗だ!
その片方はシルバータさんで、彼女は東に出撃してしまっているから、あれはもう片方、行方がわからなくなっていたフルトン・ブラック大将の旗だ!
まさか、彼がこのフォッケトシアにいようとは! どういったわけでそんなことになっているのかは知らないけれど、これはもしかしたらかなりのラッキーかもしれない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます