5 律のアプローチ


「ケータくん、顔赤いよ?」


 花音さんはますますキョトンとした。


 けど、僕の恋心にはきっと全然気づいてない……。

 よかった、花音さんが超絶鈍感な人で。

 と、


「あ、影咲希先輩!」


 律が走ってきた。


 あれ?

 先に帰ったんじゃ――。


「気になって追いかけてきたの」


 律がにっこり笑った。


「……花音さんも、どうも」

「りっちゃん、表情がこわばってない?」

「りっちゃんって言わないでください。あと、別にこわばってません。これはライバル心をむき出しにしている顔です」

「ライバル心?」

「花音さんって鈍感」


 律がジト目になった。


「だったら――花音さんが自分の気持ちに気づくようにしてあげよっかな」

「えっ?」


 僕と花音さんが同時に首をかしげる。


 と、律が僕の傍に寄り、腕に抱き着いてきた。


「ねえ、影咲希先輩、今度の土曜日にデートしませんか?」

「えっ? えっ?」

「絶対振り向かせてみせますっ」


 律が燃えている。


 うーん、この間の宣言以来やたらと積極的だからなぁ。


 僕は、律のことをどう思っているのか?

 好意を持っているかどうか……なら、間違いなくイエスだ。


 周囲で最も親しみを感じている人間の一人、といっていい。

 一緒にいて楽しいし、何よりも波長があう。


 ウマが合うってことなのかな?

 何時間一緒にいても飽きないんだ。


 可愛い後輩だし、妹みたいに感じている。



 けれど、恋しているかと言われると――。


 ノーだ。


 ノー……だよね?


 こんなふうにグイグイ来られると、自分で自分の気持ちが分からなくなってくる。


 いや、こんなふうに迷ってちゃ駄目だ。


 僕は花音さんが好きなんだ。

 こんなこと考える時点で不誠実だ。


 なのに――どうして僕の気持ちは揺れてるんだろう?






***

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