3 律の気持ち、僕の気持ち、そして花音さんの――

「っていうか、気づいてないと思った?」


 律は両手を腰に当て、軽く笑った。


「バレバレでしょ」

「バレバレなんだ……」

「花音さんと一緒にいるときに、ものすごーっく『好き好きビーム』出てる」

「なんだよ、好き好きビームって」

「視線よ、視線。あと態度とか、雰囲気とか……分かりやすすぎ!」


 と、律。


「じゃあ、花音さんにもバレてる……?」

「うーん、どうかなぁ。花音さんって信じられないほど鈍感っぽいから。気づいてないんじゃない?」


 律が言った。


 そっか、バレてないならいいや。


 安心した半面、ちょっとだけ残念でもある。


 もし僕の気持ちを知ってもらえていたら――花音さんの態度から、この恋に見込みがあるのかどうかも分かりそうなのに、と。

 そう考えてしまった。


「でも、いいの。これから先輩の気持ちが変わるかもしれないでしょ。あたしのことをもっと知ってもらえたら、花音さんよりあたしがいい、って先輩が思ってくれるかもしれない――だから、がんばる」


 律が僕をジッと見つめる。


「でも、迷惑なら言ってね。そのときは諦める」

「迷惑ってことは……ないけど」


 なんだか律に押し切られてしまった。


「それに、今は春の大会のことで精いっぱいだし」


 ……なんて逃げ方は卑怯だろうか。

 ただ、事実でもある。


「別に急かすつもりはないし、あんまり結論を急がれるとあたしも困るしね」


 律が笑った。


「これから、もっともーっと魅力的な女になって絶対先輩を落としてみせるからねっ。それまで返事は保留してて! お願い!」


 なんだか、律が小悪魔的に見えてきた。


「分かったよ、律」


 僕は苦笑交じりにうなずいた。




 数日後――。


「んー、今日も疲れたなぁ」


 サッカー部の練習を終えると、すっかり空が暗くなっていた。


 今日は満月がキレイだ。

 月がきれいですね――というフレーズが脳裏に浮かんだ。


 由来は忘れたけど『あなたを愛してしまう』という意味を含んでいるとか、なんとか。


 僕にもこの言葉を言いたい相手がいる。

 花音さんの顔が自然と浮かぶ。


 そう、まるで目の前にいるようにはっきりと――。


「――って、目の前にいた!?」


 そう、すぐ前方にスラリとしたスーツ姿の美女が歩いていた。


「あら、こんばんは。ケータくん」

「こ、こんばんは……っ」


 ああ、どうしてこんなに緊張してしまうんだろう。


 他の女子の前だと別にどうってことないのにな。





***

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